短編
□あいつは笑ってくれるでしょうか
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都会という事で暗くはないが、さすがに人気はない夜12時近く。
「はあ〜…」
残業帰りの俺は深くため息をついた。
やっと帰れるという安堵と、まじ疲れたという疲労のため息。
明日が休日だからってバリバリ残業させられた。もう下っ端ってわけでもないのにさ。
「早く風呂入ってビール呑みてぇ〜…」
そんな事をぼやきつつ歩いていると、薄暗い路地からボソボソと声が聞こえた。
……体がビクついたのはアレだから、別に怖いとかなんかそういうわけじゃないから、ほんと。
俺幽霊とか怖くねぇし。
「…なんだ?」
軽く言い争っているような声。
「……かつあげか?」
あ〜やだやだほんと最近のガキ共は怖いんだから。
巻き込まれたくないし、早く帰りたいし、疲れてるし
「知〜らね」
そう思い、路地から目を離してまた歩き出そうとした。
が
「わあっ!」
女の子とは違う、でも少し高い声に足が止まってしまった。
ドサッと何かが倒れるような音もした。
「………」
いやいや俺疲れてるしね。残業すんごいやらされたしね。
なのに何で足が止まってるんだ俺ェェ!
「………はあ…仕方ねぇ…」
何が仕方ないのか自分でも分からないが、諦めて路地の中へ入っていった。
街頭はまばらで薄暗い。歩くたびに声が段々でかくなっていく。
「…いじゃん……だけ…ら…」
「やだ…っで…」
どうやらかつあげではないようだ。
足音を忍ばせて近くに来たところで、聞き耳をたててみた。
「ちょ、離して下さいよ!」
「良いじゃん、ちょっとだけだからさ!オジサンお小遣いあげるし」
「バイトしてるんで要らないですっ!とにかく離して下さいっ!」
「分かった分かった!じゃあ変な事しないからオジサンちおいで!」
……援交の誘いかよ。しかもあの声、いくら高いからっつっても明らか男だろ。
最近はガキよりオジサンの方が怖いのね。
「ほんと離してェェ!終電がァァ!」
「オジサンち泊まって良いからさ!ねっ!」
男なら自分でどうにかしろって思ったが、取り敢えず一応助ける事にした。
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