短編

□孤独な愚者の夢想
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新八の視線を感じながらも、それを頑なに無視して丸付けを進めた。


シュッ、シュッ、とペンの音だけが教室に響く。


俺はできるだけ日曜日とかに新八に会いたい。

2人でどっかに出掛けたいし、2人で家でまったりもしたい。


教師と生徒だから、男同士だから。


俺達は休日に会いでもしなきゃ、恋人らしい事は何一つできない。


そりゃ両親の居ない新八が、バイトをたくさんして稼がなきゃなんねぇのは分かる。


でも、前はそんなに毎週毎週日曜日にバイト入れたりしてなかった。


むしろ、付き合いたての時は日曜日は入れないでいてくれた。


最近になっていきなりだ。


「………はあ」
「っ、」


自然と出た溜め息に、目の前の新八がビクついた。


ガキ臭いな俺。

三十路前のくせに、だだこねんなよ。


「……悪いな新八」


ごほん、とわざとらしく咳をし、ペンを止めた。


「えっ……」
「…さっきの、気にしなくて良いから」
「………」
「もう誘わないようにするし、気にすんな」
「…っ…」


俺はまた俯いてテストを眺める。


「先、生…」
「なあに」
「ぼ、僕の事…」
「ん?」
「き、嫌いに、なりましたか…」
「………」


嫌いになるはずがない。むしろ好きすぎるくらいだ。


でも、不安そうな表情でそう聞いてくる新八が可愛くて。


まだ俺の事好きで居てくれてるって実感できて。


「………」
「せ…先生、」
「…そんな事ねぇよ」


目を合わさずにそう言うと、ガタンとイスの音がした。


新八が立ったんだなと思うと同時に、いつの間にか近くにきていた新八に抱き締められた。


「先生っ…」
「新八?」


新八が立っているため、頭を抱えるように抱き締められている。


俺はぽんぽんと新八の背を撫でた。


「嫌わないで…先生、嫌わないで…」
「嫌ってないって」
「うそ…うそだもん…」
「嘘じゃないから」


軽く涙声で言われた。ぐす、と鼻をすするのが聞こえる。


「ごめんなさい、先生…。日曜日にバイト入れて、…ごめんなさい…」
「良いから」
「でもっ…」
「ごめんな。ちょっとイジワルしただけだよ」


すがりつくように俺に抱き付く新八の頭を撫でた。


すると新八は顔を上げ、俺の顔を覗き込んでくる。


「…ほんと?」
「ほんと」
「せんせ…」
「ん?なーに、新ちゃん」


新八の前髪をさらりと横に流し、そのまま頬を滑る。


「あの、僕、僕の事…」
「好きだよ」
「…先生っ」


新八はまた抱き付いてきた。


一応学校だから抱き締め返すのはアレかと思って、手のひらで頭を包み込むように撫でる。


「新八〜」
「せんせぇ」


抱き締めた新八からは甘い匂いが強く香った。






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