dream(飛影中編 夢で会えたら)

□夢で会えたら2
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漫画の中にトリップしたのは、既に夢見がちな年齢を過ぎてしまった社会人の私。

願ったわけでもない。

確かに昔読んでいた時期はあったもののすでに10年以上もの前の話だ。


しかも、飛影はまだ幼い少年。
始めて見た時はまだ五才かそこらだったのだが、トリップする度に見る彼は凄まじい急成長を遂げている。

すでに今では7歳位になっているのではないだろうか?
時間の進み方が明らかに違う。





さてと…

今日もまたその場にうずくまりただ時間が経つのを待ってみる


それにしても。
気のせいか、日に日に長くなっている様な気がする。

以前は10分かそこらでこの世界からバイバイ出来たものの、今は軽く一時間は超える様になってきていた。


だからこそ危ないのだ。
下手な妖怪に見つかりでもすれば逃げきれないだろう。
こちらと、妖怪ではなくただの人間界…
体力もきっともたない。


だからこそ、こうやって時間が過ぎるのをただただ大人しく待つのだ。


林の影に隠れる。

目の前で繰り広げられる妖怪達の攻防戦。

否、飛影が一方的にいたぶっている様な気もするが。

さすが、幽白。
さすが飛影…


殺されかけた恐怖は未だ消えないものの好奇心からかやはり目が離せない。




それにしてもだ−…


(そんなに……戦うの、好きなのかな。)


原作はどうだったっけ…?と思い出してみる。

確かに戦いに明け暮れていたのは事実だったように思う…

だけどだ。

戦いが終われば、時折寂しそうに赤い瞳を伏せるのだ。

その仕草に気づいたのは最近だった−…



そして、首から覗く氷泪石をじっと見つめる回数も増えてきたように思う。



(…故郷を探そうとするんだっけ??)


記憶が曖昧でよく覚えていない。

だけど、ただ覚えているのは彼が氷河の国から忌み子として追放された事は今でも記憶にある。
生まれて間もない赤子を平気で空から突き落とした。


−…母親の温かさも知らない。


憎しみを糧に彼は戦って生きている。



じっと戦い終えたであろう彼に目を向ける。

彼は近くにある大樹の側に腰を下ろし剣を立てかければ瞳を閉じる。


(…あ、また寝ちゃった。)


彼はこうして良く寝る。


(お風呂っていつ入ってるのかな?…そういえば、この前は町に行ってたみたいだし、そうだ、漂流の旅!!!)


だが、記憶が曖昧すぎる。

今がどれ位の時期なのか不明だ。


こくりと彼の頭が揺れるのが視界に入る。


それに寝たのだと思えば、こちらも一気に力が抜ける。

もう気を抜いても問題ない。
彼が眠りに付いた時点で、側に妖怪もいない。見つかる心配もないだろう…


そう思い思わず「ふぁっ」と欠伸をしかけた時だった


視界のすぐ横を走る黒い影に

心臓が大きく脈打つ


「飛影!!まだいる!!」

無意識だった。
咄嗟に出た言葉、立ち上がる両足。


瞬間、視界に映るのは襲ってきた妖怪を再び薙ぎ倒す彼の姿。

寝たふりだったのか、俊敏に動いたその行動に寝込みを襲ってもやられるならどの道彼を倒す事は至難の技なのだろうと傍観者の如く思った。

そう、確かに今までは傍観者だったのだ。
一番はじめを除いてからは。



カチャリ−…

首筋に冷ややかに当たる冷たい金属の感触


「何で俺の名を知っている」

背後から耳に入る彼の低い声。

視界の先には先程まで戦っていたと思われる彼の姿はなく、一気に身が凍る。


(これは…)



「早く言わんと知らんぞ?」

(やばいやばい…このままじゃ、このままじゃ殺される!!!!!)



「ち、違うの!!!これは−…えっと、あの−…」

(ど、どう言えば−…いいのやら。)



「俺はそう気は長くないぜ??」


さらに首に押し付けられる剣。
血の香りが鼻を刺す−…

そう、先程彼が殺したと思われる妖怪達の血の香りだ。


「そ、それは−…」

「??…おまえ、こっちを向け。」



それに逆らえる状況でもなければ、私は恐る恐る振り返る。


(剣が怖い、剣が怖い怖い怖いよ〜…)



「……どこかで会った事、あるな。」


「は、はい。たぶん、一、二年前位かと。」

現実世界では数日でも、この世界では軽く数年経っている。


「……。あの時、消えた女か。」

チャキリと首筋に剣が食い込む。



「!!!」


(覚えてる!!!!)



「…おまえは妖怪か??」

怪訝そうな彼の顔。
どうも以前より血に飢えているわけではなさそうだ。
すぐにでも殺さないのが、その証拠。
だが、一言間違えば殺されてもおかしくはないこの状況。


「人間です。」

正直に答える。


それに、一瞬瞳を細める飛影。
血の香りで鼻が利かないのだろう…

なんといってもすごい血臭だ。
自分でもこんな状況で気が張っていなければ、気持ち悪くて吐くほどだ。



「…人間がなぜここにいる。」

心底意味が分からなさそうに眉を寄せる彼。
害がないと思ったのか、殺気が感じられないからだろうか…
彼は剣を首から外してくれた。


「それが私には分からなくて…夜寝ればあなたの近くにいるんです。」



「……。」


チャキリ−…


「いや、本当!!!マジ!!!本当にそうなの!!!自分でもなんでか分からなくて!!!て、こんな命の危機に嘘つけるほど私強くも無いから!!!」

(なんでこんな子供にこんなに怯えなくてはいけないの!!!??善悪の区別の付かない幼い子ほど恐ろしいか!!!!)



「……。」


「お願い!!!信じて!!!きっともうすぐしたら私あっちに戻るから!!!それが、あなたの前から消えた理由だよ!!!??あなたの名前を知っているのは…えっと、有名だから!!!」



「……有名だと?」

怪訝そうに寄る眉。



「はい!!!信じてください!!!」


(うそは言ってません!!!)

もうなんでもいいや!!!
そう思いその場で土下座をしてみる。


しばらくすれば、血の香りと彼の気配が離れて行く。

恐る恐る顔を上げれば、背を向け歩き出している飛影の姿。


(…え??放置プレイ??こんな子供に??)


「あ、あの−…」


「…なんだ?」

赤い瞳が振り返る。


「信じてくれたんですか??」

(…というか、いいんですか??)



「…どうでもよくなった。勝手にしろ。」



「……。殺さないんですか??」

(名前知ってるとか…もういいのだろうか。)


「なんだ、殺してほしいのか??」



「い、いいえ。でも、この前は私今にも殺されそうだったから…意外で。」



「別に…血にも飽きてきた頃だ。」

ふいっと再び顔を戻せば歩き出す。



「……。」


(7歳位だよね??この子供。)


彼は側にある木に凭れ、再び瞳を伏せる。


「…寝るんですか?」


「……。」


「よかったら、私周り見てるんで、横になってもいいですよ?」

そのうち消えてしまうけど−…


「貴様、死にたいか。」

赤い瞳で睨まれる。
それに、ひっと身が凍る。

(子供なのに怖いよ〜…)



「いいえ。好きにしてください。」



「……。」



「あ、あの−…」


チャキリ−…


「え!!!??いや、待ってください!!!…あの、これも何かの縁だと思って、お、お願いがあるんですけど…!!!!」


「…縁、だと??」


うるさい女だ、殺してしまおうか−…と飛影の思考がそちらに傾けかけた時だった。


「あなたの力になるんで、私がこの世界に飛ばされるその間だけ…わ、私を守ってもらえないでしょうか??」


「俺の力だと?ふざけた事を−…」



「氷河の国を一緒に探しましょう!!飛影!!!」



「!!!!??」

その瞬間、目を見開く飛影。

それに畳み掛けるように言葉を続ける。


「どうして知っているのか私の世界の話をします!!!私も死にたくないから!!!だから−…私を守ってください。原因が分かるまで!!!」



「……。」

じっと見据える赤い瞳。

それに愛音はごくりと唾を飲み込み、その続きを話し出したのだ。



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