銀魂
□山粧う
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臥遊録
春山淡治にして笑うが如く
夏山蒼翠にして滴るが如く
秋山明浄にして粧うが如く
冬山惨淡にして眠るが如し
もう一度鏡を見て、おかしくないかちゃんと出来てるか確認する。
マスカラもまぶたについてないし、チークも不自然なほど塗りたくってはない。
グロスだって引いちゃって、普段素っぴんのあたしがみたら…あんた、誰?とでもいいそうな気合いの入り方だ。
それもそのはず。
今日は彼氏である退と念願の初デートなのだ。
鬼の副長に泣いて土下座して、一緒の日に非番を貰った甲斐があった。
化粧っ気のないあたしだってこんな特別な日にはお洒落したくなる。
久しぶりに袖を通したお気に入りの着物。
最近は隊服ばかりだからといって着方を忘れた訳じゃないが、なにぶん古いものだから着物の柄が流行からずれてて隣歩きたくないなんて思われたらどうしよう、なんて心配が後ろから影のようについてくる。
いつもは適当に括っている髪も、手の込んだ髪型をして簪でとめている。
自分ではまぁまぁ可愛いと思えるのだが、退はどうだろう…?
鏡とにらめっこしながらそんなことを思っていたら、障子に影が出てきた。
「準備できた?開けていい?」
退の声だ。
準備ができたら退があたしの部屋まで迎えに来ることになっていた。
緊張の面持ちで、鏡に布をかけて鋭い煌めきを隠す。
「…うん」
手短に返事をすれば遠慮がちに襖が開いた。
わぁと小さく歓声をあげた退に着物の袖を握って見せびらかすように袖を広げた。
「…おかしく、ない?」
不安がるあたしに対して退は恥ずかしそうに指で頬をかきながら笑った。
「とっても可愛いよ」
飾り気のない言葉で誉められれば嬉しくなって、エヘヘと口からだらしない声が漏れた。
「お化粧してるんだね」
「うん。退とのデートの時ぐらいは綺麗にしておきたいから」
そう笑って財布が入ったバッグを取ったあたしだが、次の退の言葉に思わず取ったバッグをまるでギャグのコントみたいに落としてしまった。
「化粧なんてしなくても十分綺麗だと俺は思うけどな」
秋山明浄にして粧うが如く
end
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