壱
□赤い傘/沖神
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一本の赤い傘が、大きく円を描いて宙を舞った。
「あっ、」
名残惜しそうに神楽が漏らす声は、どこか呆気なく風の音に消えていった。しばらく動けず立ち竦むと、後ろから沖田が呟いた。
「まるで、赤い月みてぇだな」
神楽はムッとして、沖田の背中を踏み台にして、高く飛んだ。
傘を掴むと、雨風が強くバランスを崩す。沖田は上から降ってくる神楽を抱きかかえ、そのまま落とした。
「いってぇアルな!」
「いってぇのはこっちでェ!何、人を勝手に踏み台にしてんだ!」
互いに睨み合うと、雨風がうるさく音を立てた。
「ほれみろ、びしょ濡れじゃねぇか」
「大体、ワタシの傘にお前が入るからいけねぇんだヨ。テメェは濡れて帰りナ」
言い合う二人を恨めしく、雨風はより強く二人に降りかかっていった。
2010/6/14