□遠い足音/万事屋
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物心が付いた頃、一番最初に見た色は青。次に赤だった。上を見れば青が広がった。空を見て、始めて青を知った。だけど地に植物に動物は赤く、さらには雨まで真っ赤。人間は黒く濁った赤に染まって腐っていった。

見るもの全てが赤く、きっと自分も真っ赤なのだろうと真剣に思っていた。人間は、誰しも赤黒く染まっているのだろうと、子供ながらに思っていたのだ。

だが、始めて自分自身を目にしたのは、雨にたまった水溜まりからだった。雨も赤いものだと思っていたが、生憎今日に限って透明だった。

水溜まりに顔を近付けると、そこには人間の姿が写り込んでいた。それを自分だと理解するのに、数秒と動きを止めた。

そこに写ったのは、銀髪の髪をした小柄な男の子が写る。首を横に傾げ、水溜まりに自身の手を突っ込んだ。

すれば水は真っ赤に染まり、自分は見えなくなった。同時に自分の手にしている真っ赤に染まっている刀を、横に倒れている人たちは光のない目でただただ見ていた。

自分自身を見つめる銀時と、屍となった人間。


この時代は戦。

自分は、この時代を生き抜いてきた。いくつもの生き抜くすべがあった。それは癖となって、今も染み着いている。その一つ。


「俺の癖。」

それは足音立てずに、歩くこと。





それが今になって、気付かされた。それは無意識でやっていたことだし、誰も何も言わないから、知らなかった。気にしたこともない。

最初に口にしたのは、お登勢だった。


「あんた、いつからいたんだい?全く気配がしなかったよ。」


一歩一歩、確実に背後からお登勢に近付いたにも関わらず、どうやら足音一つしなかったらしい。振り返るなり不思議そうなお登勢の表情に、苦笑一つ浮かべられず、ただただ頭の中で思考を巡らせた。


「それ、お前さんの癖かい?」


お登勢の何気ない問いかけに、「そうなのかもな」と軽く答えた。あまり深く考えてもいない。


「つい最近まで、この世の中物騒だったからね。まだ染み付いてるのさ。そんな癖、取っ払っちまいな。」


お登勢はタバコを一口吸うと、銀時をチラリと見た。険しい表情を見せ、すぐさま困り果てているのか、呆れているのか、どちらとも取れる表情をした。


「あんた、そうやっていつまで一人でいるんだい?」


その言葉に、図星なんだかなんなんだか、わからない感情にカチンときた。〈別に一人でいたい。〉と考えてしまうあたり、どうやら自分はひねくれているのだろう。

それは、まだお登勢に拾われてから間もない頃の話。今からすれば、まだまだ若い。







そこから、出会いと別れを繰り返した。出逢ったら、永遠と腐れ縁っぽくなるし、別れたとしても、次の約束を直ぐに取り付ける。

あの頃とは違い、永遠の別れにはならないらしい。


中でも、新八と神楽だけは別格。何をするにも三人一緒。何をするも優先。世の中平和になったもんだと関心する。

例えば、

「銀ちゃん!」
「銀さん!」

などと、二人が名前を呼ぶ度に、心の奥底では震え上がっていた。二人が呼ぶ名前は、誰よりも綺麗な純粋な名前に聞こえ、まるで自分の名前ではないような感じ。

逆に、

「神楽ァ」
「新八ィ」

銀時が二人の名前を呼ぶと、二人は笑みを浮かべて振り返ってくれる。それがどうしてもくすぐったかった。






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