壱
□複雑家族事情/万事屋
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彼に女の気配が全く見られないのは、きっと僕やワタシたちがいるからだ。
そう思い始めた年頃の二人は、酔っ払って帰ってきた銀時を見て思った。 玄関に倒れ込み、うつ伏せになって寝息を立てる。 さっきまで、「帰ったぞ〜、新八ィ〜神楽ァ〜」なんて上機嫌で声を張り上げた姿はない。
そんな銀時を見て、新八と神楽は呆れ混じりに溜め息を付いた。 そして二人で顔を見合わせる。
こんなこと、もう日常になりつつある。 見慣れた彼のこんな姿を見ても、自然と人が寄り付くのも不思議な話である。 不思議と人を寄り付かせるという、周りの人を魅了させる力を持っているこの男。 こんな姿からじゃ想像もつかない。
「銀さん、風邪ひきますよ」
新八が気を利かせて声をかけるが、銀時は酒のせいか顔を赤らめて小さく唸る。 起きる様子はない。
近くに行けば行くほど酒の臭いがする。 神楽は玄関を離れてリビングに戻り、さっきまで見ていたテレビを見続ける。
「神楽ちゃん、手伝ってよ!」
「頑張れヨ、新八ィ」
姿の見えない神楽の声だけが響き渡る。 夜中とはいえ、大きな声を出したことに少し心の中で後悔しつつも一息ついた新八は、銀時を引きずるようにして、テレビを見ている神楽の前を横切り、居間へと運ぶ。
「新八、見えない」
「神楽ちゃん、寝室からタオルケット持ってきてくれる?」
新八が困ったような表情を向けると、「しょうがないアルな」と言った神楽が立ち上がり、寝室へと向かっていった。
「床でいいかな」
銀時を床で寝かせ、神楽が持ってきたタオルケットを受け取ると、それを丁寧に銀時にかける。 神楽はまたスグにソファーに座り、テレビの方に視線を移す。
「神楽ちゃん、もう寝なよ」
「わかってるアル」
「いやいや、わかってないでしょ!」
新八がテレビのリモコンを手に、「もう12時だから」と言った。 神楽はしぶしぶ立ち上がり、新八に視線を向ける。
「銀ちゃん、今日はマダオと飲んできたアルか」
「あー…、確かそうだね」
「やっぱり、銀ちゃんもマダオネ」
そう言った神楽の表情が寂しげで、新八は声をかけようにもかけられなかった。 無言で押し入れに入っていく神楽に、その背中に向かって「おやすみ」としか言えなかった。新八の言葉は、自分自身に跳ね返ってきそうだった。
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