□下町のサンタさん/万事屋
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キャバにホストにクラブ。

夜の町、かぶき町を子二人引き連れて、堂々とネオンの下を歩いている男がいる。 その男率いるは、そこらじゃ(迷惑的な意味で)有名な万事屋さん。

男はかぶき町では人気が有り、普段なら行き交う度に声をかけられる事が多いのだが、このクリスマス直前の人だかりとくれば、カップルばかりで、子連れの男に見向きもしなかった。

腰にさげる男の木刀は小刻みに揺れ、眼鏡をかける青年はため息をつき、隣にいる幼い少女は、すれ違うカップルを睨みつけ、小さく舌打ちをした。


「どこもかしこもカップルばかりネ!クリスマスだからって、調子乗ってんじゃねぇよコノヤロー!どうせキャバクラやホストクラブで知り合った、一夜限りのパートナーに決まってるネ!一夜の過ち犯してんじゃねぇーよ!!」
「ちょっと、神楽ちゃん!」


神楽が大きな声で、傘を大きく振り回して威嚇した。 周りの視線は一気に神楽たちに降り注ぐが、銀時と神楽は一切気にしない。 世間様の目を気にしているのは、新八だけだ。

新八は身を縮めて、こっそり銀時に耳打ちをした。


「銀さん、僕ら明らか場違いですよ。みんなの視線が痛いです。」
「我慢しろ、気にすんな新八。しょうがねぇよ、カップルがうろつくふしだらな町、かぶき町に生まれ育った限り、諦めろ。」


すれ違うカップルを睨み付ける銀時の握った拳には青筋が立てられている。 肩を並べ、彼氏が彼女の肩を引き寄せて見つめ合う。 そんなことを道のど真ん中でやられ、新八は思わず神楽の視界を手で覆い、銀時は「おいおいおいおい」と割ってでた。


「おぃ、そこのテメェ、ど真ん中でいちゃついてんじゃねぇよ!嫌みか?嫌みなのか?大体よぉ、クリスマスは24日じゃねぇ、25だ!イブに前夜祭だかなんだかしんねぇけど、頼むから家帰ってくださいお願いします!」
「めちゃくちゃ気にしてんじゃないですか!」


思わず新八が間に割ってでると、銀時は「だってよ」と言葉を続けた。 絡んだカップルは急ぎ足でその場を去り、銀時と新八と神楽は、また自分のペースで歩き始めた。 溜め息混じり始めた一言は、「見てみろよ」だ。


「ったく、いつまでも頭ん中がメリークリスマスとは、めでてぇ奴らだな…、俺の頭は天パーだってのによォ!」
「銀ちゃんは脳みそも天パーだから、そこらの頭クルクルのヤツでも勝ち抜けるアル」
「んだとゴラァァァァァァ!」
「やるかコラァァァァァ!!」
「ちょっ、二人とも止めなよ!」


間を割って入る新八は宥めるようにして、仲裁役を自ら受け持った。 だが銀時と神楽は近い距離で睨み合い、互いに拳を握って構えた。


「ほら、みんな見てるから!」
「メリークリスマス、コノヤロォォォォー」
「ホワイトクリムーシチュー食べたいぞ、コノヤロォォォォー」
「いや、神楽ちゃん。それ単に願望だから。何コレ、結局祝ってんの?」


大声を出して胸を張って歩く銀時と神楽は、堂々と真ん中を通り、新八は縮こまって後ろに続く。


「ケーキ買いに行くぞ!」
「ケーキ!ケーキ!ワタシ、丸々ホールで食べてみたいアル!夢ネ!」
「ばっか野郎!んな金はねぇ、銀さんクリスマスのサンタさんに銀色の玉持ってかれて、金も希望も夢もねぇよ!ありゃサンタじゃなくて詐欺師だ!金の玉なら2つあるよ?そりゃ銀さんの勝負玉だからだ!だけど銀の玉は侍魂どころか、身ぐるみ剥がされちゃうからね!」
「いやいやいやいや、何の話ですか。パチンコしに行って負けたんでしょ?苦しい言い訳にも程がありますよ!しかも詐欺師って、子供の夢ぶち壊しですからね!」
「マジでか!サンタは詐欺師アルか!」
「んなわけないでしょ!」


新八が声を張り上げた。すると、銀時は二人より前に一歩出て言い切った。


「サンタってのはな、実は水商売してんだよ」
「マジでか!!!?」


銀時の言葉に神楽は声を上げて驚き、辺りを見渡した。


「サンタも、ようは金なんだよ」
「妙に現実的ですね」


新八は苦笑しながらも、前を歩く銀時の後ろをついていく。 神楽は銀時の服を引っ張り、指差した。 怪しい街の中心にある大きなクリスマスツリー。 大きさは銀時の身長よりは二周り小さいぐらいで、飾りも色も目に悪そうだ。


「ワタシ、せめてツリーが欲しいアル」
「んじゃ、それをサンタからの贈り物ってことにすっか。」


そう言った銀時は、ツリーを担ぎ上げ声を上げた。


「よし、走れ!」


銀時が一足先に走っていると、後ろから新八と神楽が後を追う。


「ゴラァァァァァァ!待てやァァァァァ!」


のちに怖いお兄さんたちが、低い声をして追いかけてくる。 万事屋の三人は全力で走り出す。


「銀さん、マズいですよ!返した方がよくないですか!?」
「あ?今止まって返したところで、止まんのは俺たちの息の根だから!いいから走れ!!」
「きゃっほーい!」


どんどん先まで走っていき、かぶき町を一周したんじゃないかってぐらい走り回った。 次第に事が大きくなり、警察まで出てくる始末。


「止まりやがれ万事屋ァァァァァ!」
「誰が止まるか!このニコチンやろォォォォ!」


後ろからパトカーで追いかけてくる土方が、片手にハンドル、片手にメガホンを使って叫ぶ。隣にいる沖田はバズーカの位置を隣の土方に向ける。


「おい、こら総悟!向ける相手がちげぇぇ!!!」
「いや、間違ってませんぜ!俺ァ、土方さんにクリスマスプレゼントを渡したいんでさァ。俺の想いを乗せて!」
「明らかに憎しみという想いだろォォォォがァァァァァ!!」


パトカーで乱闘が始まって、右へ左と不安定な運転が続く。 のち、壁に激突して動かなくなる。



「なぁ、」


走りながら銀時が、新八と神楽に声をかける。 二人は走りながら必死に耳を傾ける。


「これが俺からお前に贈るクリスマスプレゼントだ…」
「これ?」
「これって何アルか?」


新八と神楽が尋ねると、銀時は妖しく笑って、立ち止まる。


「疲労だ」


どんっ、と担いでいたクリスマスツリーを置いて、新八と神楽を見る。 すると新八と神楽の握る拳が小刻みに震えた。


「「ふざけんなァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」


今度は新八と神楽が、凄い勢いで走ってくる。 銀時はクリスマスツリーがなくなった代わり身は軽いが、威圧がかかる。


「ちょっ、落ち着け!落ち着けって!」
「「落ち着けるかァァァァァ!!!」」


凄い形相で走る新八と神楽に、銀時が凄い勢いで逃げていく。


「全く、準備出来たから呼びに来たっていうのに、何やってんだかね」


その場に通りがかったお登勢が呆れ混じりに溜め息を吐いた。それが吸っていたタバコの煙だが、外の寒さからの白い息なのかわからぬまま、闇へ溶けていった。









2009/12/24
メリークリスマス

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