□夕暮れ時の出来事/沖神
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沖田と神楽との距離、約30センチ。



一発殴っただけで、拳が赤くなった。 人を殴ったとわかった瞬間、拳が震え上がった。 真っ赤になった右手の拳を、左手で包み込む。


「あっ、」


思わず声が漏れる。 殴ってしまったという衝撃から、唖然と立ちすくむ神楽は、目の前に立ちふさがる男を見る。


「甘いぜ、チャイナ」


ニヤリと怪しく笑う男の頬は、紅く染まっていた。 熱を持つ頬は、次第に熱くなる。 神楽は呆れた顔をして、細目で沖田を見た。


「馬鹿アルな。早く冷やすよろし」


神楽が真横を指差す。 「早く帰れ」ということを、声には出さずに知らせたかった。

すると沖田は、殴られた頬に手を当てて小さく笑った。


「まだまだ」


小さく笑った沖田は、刀に手をかける。 「まだやる気ネ」と、神楽は呆れて溜め息をついた。

先ほど、その刀に吹っ飛ばされた傘は、随分と遠くにある。 取りに行くのは到底無理だ。


手が出たのは、とっさの判断だ。 無意識で、出てしまっただけで、悪気はない。 謝るつもりもさらさらないが。



「チャイナ」
「なにアルか」


今この場で斬られたら、多分死ぬだろう。 神楽は覚悟を決めて顔を上に向ける。


すると、沖田は腰にある刀を抜き、地面へと落とした。


神楽は呆気にとられ、刀が地面に叩きつけられるのを見ていると、神楽の両頬が掴まれる。


「なっ、」
「すげぇ、伸びるじゃねぇかィ」


沖田はケラケラ笑いながら、神楽の頬を掴んで引っ張る。 神楽は足で沖田のつねを蹴り、なんとか解放される。


「いってェじゃねぇか!何しやがる、チャイナ!」
「それはワタシのセリフネ!」


神楽は引っ張られた両頬を、手で抑える。 すると沖田は、また小さく笑った。


「これで、おあいこだ」


そう言われ、なんだか神楽の右手の痛みは損な気がしてならなかった。







たまには平和的解決を










2009/10/14

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