壱
□味覚音痴/土銀(銀誕)
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昔、付き合っていた女が俺の誕生日にケーキを作ってくれた。 ケーキに使用した砂糖は、通常の三倍増し。 それはもう、俺にとって、最高に嬉しいプレゼントだった。
という、昔の女の話は数年前のことなわけで、今とは全く違う。 今の彼女は、いわば女王様。 勝手で屁理屈で、タバコをふかす。 昔の女とは全く違う。 むしろ初めて付き合う野郎の性別。
今日が俺の誕生日だということを、今知ったこの男。 オマケに三人掛けのベンチの1.5倍を占領する始末。 タバコをふかして、空を見上げる。
「で?お兄さんは、俺の誕生日に何かしようとは思わないわけ?」
話が見当たらない切り出した。いつまで経っても無言。 なんで俺が気を利かせなきゃならねぇんだか。
大体、誕生日だって知ったのも、神楽から沖田、沖田からこの男に繋がったらしく、手土産持たずに公園ぶらついたら、たまたま逢ったとは、これまた随分な偶然だこと。
男は空を見上げていた視線を、俺へと向ける。
「何かして欲しいのか?」
「いらねぇよ。 ハナからテメェになんの期待もしてねぇしな」
一息ついて呆れた顔をしてやった。 実際期待もなんにもしてねぇし、手ぶらなこの男は、両手をポケットに突っ込んでいるわけだし。
「…どっか食いに行くか」
ポケットに手を突っ込んだまま、ベンチから立ち上がった。 フラフラと先を歩くニコチン野郎。
「おい、待てよ」
慌てて立ち上がるが、駆け足で行くのもなんだから、自分のペースで歩く。
お前の奢り?
返せって言っても返さねぇからな。
マヨネーズ入れんなよ。
あっ、俺甘いもん食いてぇ。
つか、どこ向かってんだよ。
一方的に話しかけても返事は返ってこない。 どんどん先を歩くニコチン野郎に、重い溜め息を吐いた。 多分聞こえているハズ。
「おい」
「なんだよ」
重い溜め息が聞こえたのか、ニコチン野郎は振り返る。 低い声で呼ばれ、少し身をよじらす。
「早く来い」
「……ハイハイ」
なんつーわがまま女王様。
別に話はしないけど、なんだか並んで歩いてたら、タバコの臭いしかしねぇ。あと、マヨネーズ? マヨ臭い。
お店のパフェは、マヨネーズの味がした。
俺の好みからアイツ好みの味へ
2009/10/14