□糖の日/万事屋(銀誕)
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万事屋の居間の柱に飾ってある日めくりカレンダーは、10月の後半までめくってある。

普段はこまめに捲ることなどしない住人たちだが、現実逃避にはもってこいのアイテムとして、1日に10枚と捲る日もあれば、存在忘れて一週間放置の日もある。

そんな日めくりカレンダーは、本来の日にちを差してはいない。 実際、朝起きたら真っ先にテレビを付けて、日付を告げられるのだから、日めくりカレンダーなど見やしないのだが。



「ふぁーあ」



大きな欠伸をした神楽が、寝床にしている押し入れから出てくるなり、テーブルの上に置いてあるテレビのリモコンを手にし、電源をつけた。



「おはようございます。10月10日、今日のニュースです。」



箱型テレビに映るアナウンサーが、ニッコリと笑う。 トイレに行こうとしていた神楽は足を止め、唖然としてテレビを見た。



しばらく立ち止まり、ゆっくり考える。



日めくりカレンダーを見るなり、日付は10月30日となっている。 神楽は頭を抱え、しゃがみこんだ。




「おはよーございます。 あれ、神楽ちゃん。今日は早起きだね。」


家の合い鍵使って入って来た新八は、家の中に入るなり、居間で頭を抱えて座り込んでいる神楽を見て首を傾げた。


「どうかしたの?」
「どうしたもなにも、新八ィ…。 今日は何の日かわかってるアルか?」


神楽が下をに俯いたまま新八に尋ねた。 新八はわけもわからず、「さぁ…」と短く返事をした。


「今日は…、銀ちゃんの誕生日アル」


神楽がガックリと肩を落として言う。 新八は、「あっ…」と小さく声を漏らした。


「忘れてた…」
「最悪アルな、新八」
「いやいや、神楽ちゃんだって忘れてたんでしょ!?」
「別に忘れてたわけじゃないアル。 ただ少しビックリしてたアル。」
「だから、それ忘れてるから」


とりあえず、どうするべきか。 と二人は頭を抱え込む。 あいにく、当の本人である銀時は、まだ寝ているみたいだし、今のうちにと考える。


「ここ最近、忙しかったからね」
「そうアル、だから忘れても仕方ないアル!!」
「いや、それとこれとは…」


違うんじゃない? と新八が言おうとしたと同時に、寝床の襖が静かに開いた。


「オメェら、ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ、発情期ですかコノヤロー」


めんどくさそうに頭をかき、眠そうな目を新八と神楽に向けた。


「銀さん、大丈夫ですか?」
「あ?何がだよ」
「銀ちゃん、顔赤いアル」


神楽が銀時の顔を指さすと、銀時は咳を勢いよくした。 新八は、「もしかして」と切り出し、銀時に駆け寄った。


「やっぱり。銀さん、熱ありますよ」
「熱アルか!」


神楽がビックリした表情で、反射的に銀時から一歩引いた。




「銀さん、休みもなく働いてたり、ジャンプのギャグ漫画にしては、ここ最近までバトッてましたからね。」


銀時を布団に寝かし、氷まくらとタオルを持ってきた新八が声をかける。 銀時の隣に座り込んでいる神楽は心配そうに銀時の顔を覗き込んだ。



「新八、神楽をあっちの部屋にやってくれ」


銀時が居間の方を指差して、新八を見る。新八は、「それじゃあ、神楽ちゃん。あっちに行こうか」と言って背中を押す。


「嫌アル」
「移るぞ」
「別にいいアル」


神楽はムスッとして、座り込んだまま動かない。 新八も諦めて、自分も座り込む。


「腹減ったアル」


神楽がお腹を押さえて呟いた。 隣に座る新八は神楽を見て、「そういえば朝から何も食べてないっけ。」と呟いた。


そうは言っても、目が覚めたのは昼頃なわけだから、朝も昼も同じである。


「じゃあ、ワタシが何か作ってあげるネ!」


ハッと思いついた神楽が立ち上がり、台所へと向かって走り出す。


「ちょっ!おまっ!新八、神楽を止めろ!」


神楽の料理の恐ろしさ、お前ならわかるだろ。 と訴えながらも咳をする銀時。 新八はニッコリと微笑んで、「きっと銀さんに食べてもらいたいんですよ」と言った。


「おいィィィィィィィ!食べてもらいたいと、食べたくないとは噛み合わねぇんだよォォ!」



銀時が息を切らしながらも訴えた。 だけど新八は、「無理しないで寝ててください」となだめた。


「なんか欲しいものはありますか?」
「ちゃんとした料理。おかしいだろ、台所からノコギリで木を切り落とす音がするだぜ?何を作ったらそうなるんだよ!」
「まぁまぁ」


新八はクスクスと小さく笑うと、銀時は「なぁ」と切り出した。


「どうしました?」
「今日、なんかある日か?」
「どうしてですか?」
「いや、妙に様子がおかしいし…」


銀時が首を傾げると、神楽は両手で土鍋を持ち、襖を足で開けるなり得意げに言った。


「今日は銀ちゃんの誕生日アル!」


さっきまで忘れてたのに。 と新八は内心思いながらも苦笑した。 当の本人である銀時は、「あぁ…」と今思い出したかのように声を出しながら、上半身だけ起きあがらせた。


「あーん、のサービスしてあげるネ!」
「いらねぇよ、普通に食える」


神楽が持ってきた土鍋を銀時の前に出すと、見た目は意外と普通なおかゆ。


「銀ちゃん、あーん」
「ったく…」


銀時が観念して口を開ける。レンゲに一口乗せたおかゆを食べさせる。 銀時は一口入れたとたん、顔を歪ませた。


「神楽ちゃん?何入れた…」
「ポテトチップスにマシュマロ」
「…」


得意げに笑う神楽に、銀時は言葉も出ない。 隣にいる新八は苦笑しながらも、内心楽しそうだ。


神楽と新八は、顔を見合わせる。


「銀ちゃん、誕生日おめでとうアル」
「銀さん、誕生日おめでとう」


二人に改めて言われ銀時は唖然としながら、「おぉ」と短く返事した。









2009/10/14

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