□無題/銀+土+沖
1ページ/1ページ





音が、音を奪った。

白いイヤホンコードは、腰から耳元へと続いている。そこからは、何の音楽かは聞き取れない程度に多少音漏れをしている。

いつもいつも、周りの話声や雑音などを塞ぎ込むかのような態度に、土方は横目で見ながらも呆れていた。外回りに出かけるも、ただ呆然と歩いているだけ。隣の沖田は音楽を聞き、土方はただ不機嫌になっていく。


「総悟、聞いてんのか!」
「土方さん、何百面相してんですかィ。」
「死ね」
「オメェが死ね」
「聞こえてんじゃねぇか!!!!」


目も合わせず、ボソボソと会話を続けていく。沖田が「しょうがねぇ」と言ってイヤホンを取ると、違和感を覚えた。


「土方さん、」
「なんだ」
「いや、あっちから…」


沖田が指さす方向を向くと、物凄い速さの足音と、馬鹿でかい叫び声が聞こえてきた。


「だァァァァァァァァ、しつけーよ!家賃払うから!来月絶対払うから!見逃せよ、たま!たまの玉やれば、いい金になるだろ!」
「いや、だからたまさんに玉はないですって!」
「たまなのに?」
「しつけーよ!!!!!」
「銀ちゃん、新八ィ。此処は三人で別れて逃げ切るね!私は左に行くアル!行くよ、定春!」
「じゃあ、僕は右で」
「えっ、ちょっ!!待て、お前ら!いや、たまさん俺んとこ来てんですけど!!オィィィィィィ!」


嵐のように去っていく三人組+犬。後ろから追ってくるお掃除ロボのたまは、かわいい顔にモップを手にして、凄まじい勢いで銀時たちを追いかけていった。


土方や沖田の隣を通り過ぎたのは銀時で、銀時は横目で土方や沖田をチラリと横目で見た後、全力でたまから逃げ切ろうと走り去った。その後、すぐにたまが追いかけていく。



「何してんだ、アイツ」
「ダンナが居る内は、此処も平和ですかね」
「いや、寧ろアイツが元凶だろ」


「それもそうですね」、心から頷く言葉に土方が首を傾げる。


「で、あそこに微妙に隠れきれてない銀髪は何してんだ」


土方が指さす場所を見ると、物影に隠れる銀時の姿が見受けられた。あまりにもわかりやすくて、沖田は近付くなり、「何やってんですかィ、ダンナ」と声をかけた。


「うおっ、脅かすなよ!さっき見てただろ、あのロボットから逃げてんだよ!!いねぇよな?」


周りを見渡す銀時に、「いませんぜ」とだけ言うと、心から安堵の溜め息をついた。


「家賃滞納ぐらい見逃せっての」
「税金払ってねぇやつが、家賃まで払えてねぇとはな」


土方が上から見下ろすように言うと、銀時は「うっせぇ、ニコチンが!」と言い放つ。その会話を横から聞いてた沖田は口を開き、思いつきの言葉を区切り区切りに選ぶ。


「ダンナ」
「あ?」
「腕」
「腕?」
「血、出てますぜ」


自分の腕を指さす沖田に、銀時も自分の腕を見てみると、血がかすかにたれ流れていた。近くの木材にでもかすったか、かすり傷程度の傷口に土方が、「唾でもつけときゃ、治るだろ」とだけ言った。


「理屈じゃねぇな」
「んじゃ、テメェなら何して治すんだよ」
「イチゴ牛乳でも飲んどきゃ治る」
「テメェの方が、よっぽど理屈じゃねぇよ!単なる糖分摂取だろーが!テメェの体は糖分で出来てんのか!!」
「うっせぇ、マヨラー!ならオメェは油だろーが!」


土方と銀時の二人が言い合っているのを、沖田は目を細め、呆れたような溜め息を一息ついた。


「とりあえず、これで拭いてくだせぇ。俺の昔の赤ふんでよければ…」
「そこは普通、ハンカチとかじゃねぇの?つか、なんで赤ふん持ち歩いちゃってんの、この子…」


手渡された赤ふんを冷ややかな目で見つめる銀時に、沖田がうっすら笑みを浮かべた。絶対に確信犯だと理解する。


「俺、絶対にコイツにいつか殺られる」


銀時の青ざめた顔に、土方は心の中で合掌した。















過去ログ/心臓の音が俺の聴覚を支配した。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ