壱
□無題/銀+高
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小さい頃、フラフラと放浪癖がついていた銀時は、よく夜中にこっそり散歩がてら外に抜け出すことが多々あった。それが一度見つかり、桂は怒りと心配の両方の感情を銀時にぶつけられたが、銀時はただただ視線を合わせず、めんどくさそうに溜め息をつくだけだった。
今宵も月の綺麗な晩の夜。導かれるように、物音を立てずに外へと足を運んだ。
「銀時」
夜中のシンとして空気に、後ろから不意に呼ぶ名前の声は、まるで人間のものとは違うような気がして、体を強張らせ振り返る。
そこには、同じくらいの背たけの男が一人。見覚えのある知人だと分かるのに、数秒とかかった。
「んだよ、高杉。いたのか」
「こんな時間に何してんだよ」
散歩、とだけ言うと、高杉は「ふーん」と銀時の姿を全体的に目に焼き移す。
「先生も、お前が夜中に抜け出すの知ってんのに何も言わないからな」
「呆れてんだろ」
「かもな」
高杉が視線を銀時から反らして、小さな声で呟く。自信家の高杉にとって、それは言い切れないところなのだろう。否定もしない言葉は、声には出さないが、少し傷付く。すると口ごもっていた高杉が、静かな声で言った。
「でも、お前が帰ってくるまで、先生寝ないんだ」
拗ねたような、でも安心してるような。
「高杉」
「?」
「お前、俺の事が心配で来た?」
何気なく、さり気なく聞いたつもりだった。違うなら違うと即答で返事が返ってくると思ってた。
「いいから、帰るぞ!」
そう言った高杉は、そっぽ向く。
数年後、高杉は何も言わず姿を消した。
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