長編【壱】

□じゅう
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神楽がサツキの家に行くなり、驚いたことに野次馬の多さで、家さえも人で見えなかった。住宅街の噂の早さは、ほとんどの住民に行き届いていた。


人を掻き分けて前に進むと、見覚えのある車が何台か止まっている。それが真選組のパトカーであることが神楽に分かると、神楽は体を強ばらせた。

しばらくすると、家の中から人影が3つほど見えた。目を向けると、サツキと一緒に出てきた土方と近藤と目が合った。


俯いていたサツキの名前を呼ぶと、サツキは顔を上げ、神楽と視線が交わった。


今までで、一番優しい笑顔を見せたサツキは、車に乗り込み、神楽は車が見えなくなるまで見送った。

その車は屯所に向かうことなく、沖田と巡り合わせることもなかった。







前日、土方の言っていた違和感が解決した


沖田の持ってきた報告書に書かれていたのは、およそ1ヶ月前に起こった攘夷派の事件の真相だった。

サツキという女が、薬の売買人であることと同時に、攘夷派に運び屋として運ばせていたこと、そして不利になった売買契約にケリがつけられなくなった女は、全て自分の兄のいる攘夷派に押し付けた。

兄の剣に迷いが無かったのは、きっと殺意があったからだ。乗り込んできた真選組と、裏切った妹に。


その報告書を手にした土方は、小さく「証拠は?」と沖田に尋ねた。

すると沖田はポケットから小さな袋を取り出した。小さな白い粒が沢山入っているのを見て、それがすぐに薬だとわかる。



「どこで手に入れた」
「あの女の家からでェ」


肩を竦めて笑う沖田に、「明日、逮捕状を出す。」とだけ土方は言った。


沖田が気を使ってお茶を入れてくれると言ってくれた行為を、こんな形で礼をするなんて、彼女自身も思ってなかった。




「最後に、」



土方と近藤の間に座るサツキが、口を開いた。走るパトカーに揺られ、サツキは、一度しか呼ばなかった名前をもう一度言った。



「総悟くんは、凄く私に似てる。きっとお姉さんも、私のお兄さんみたいに素敵な優しい人、だったんだね。そう、言ってください。」



まるで皮肉にしか捉えられない言葉に、近藤も土方も返事はしなかった。



そしてその言葉、最後までサツキの言葉は、沖田の耳に入ることはなかった。













最終…2010/7/14

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