長編【壱】

□ろく
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「やっぱりな」


山崎が土方に報告するなり、土方の第一声は、その言葉だった。呆れ顔に、深い溜め息。眉間にシワが集まり、どんどんと土方の部屋は空気が悪くなっていく。


「あのヤロウ、散々言っただろーが…」
「やっぱり、あの男の妹さんを疑って…」
「いや、総悟のヤツは疑うどころかピンともこねぇよ」
「なら、なんで…」
「さぁな、同情か…。もしくは、自分の姉と重ねてるのかもな。」
「なら、早く言わないと…」
「いや、解決するまでほっといてやれ。同時に探れるいい機会だ。それが、アイツの為だ。」
「はァ…」


何とも間抜けな返事が出たと、山崎は内心思いながら、心底沖田に同情した。

結局、何も知らずに近くにいる沖田は、何を思って、そこにいるのか。山崎には全くわからず、少しだけ思考を巡らせ、止めた。






それからあまり時間が経たない頃、スナックお登勢の二階、万事屋と名高い建物に、本日初めてのお客さんがやって来た。

顔見知りのお客は、座るソファーより深々と頭を下げて、必死に頼み込む。


「隊長を助けてやってください、ダンナ!」


山崎は、行く宛もなく歩き出した足を、思い付きで頼れる何でも屋との名がある万事屋に足を運んだ。だが、なんのことだかわからず、銀時は首を傾げた。隣に座る新八や神楽も、顔を見合わせて首を傾げる。


「いや、隊長って沖田だろ?アイツがどうかしたのか?」


銀時が、「また何かやらかしたのか」と言わんばかりに尋ねると、山崎はここ最近に遭った出来事を話した。仕事の話もあるので、伏せるべき所は伏せて話した。


自分に斬りかかってきた男の妹の所に通い詰めている。大体まとめると、そんな感じになって、万事屋の三人の耳に通した。

全て話し終わると、銀時は重い溜め息を付いて、いつもの調子で手をヒラヒラと宙で泳がせた。


「ほっとけよ、そんなガキの惚れた腫れた」
「いや、でも可哀想じゃないですか」
「そうアル!その女、あんなサドと一緒にいたら体壊すネ!」
「あ、沖田さんの心配じゃないんだ…」


山崎を置いて、三人で話す会話はどこか心配しているどころか、同情しているようにも捉えられる。


「わかってるだろーよ。アイツだって、自分に姉がいたんだからな。」


そう言われ、山崎は「隊長なら、全て理解しているだろう」と仮説を立て、「そうですね」と前向きに返事をした。



きっと、土方の考えもわかっていて
きっと、沖田の考えもわかっていて


いい方いい方へ考え、山崎は沖田への極秘捜査を今日限りでヤメにした。







2010/6/14

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