長編【壱】

□に
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次に沖田が目を覚ますと、横になっている沖田の隣に書類に目を通す土方の姿があった。目覚め早々に、沖田は上半身だけを起き上がらせて、口元を緩ませて話始めた。


「なんでェ、土方さん。目覚め早々に土方さんの顔を拝むたァ、俺もそろそろ死が近いんですかね」
「それだけ口が利けるなら大丈夫そうだな。安心しろ、お前が死んだら墓にマヨネーズも一緒に埋めてやらァ」
「シね」
「テメェがシね」


沖田が溜め息混じりに俯くと、土方は自分の手にしていた書類を沖田の膝元に投げた。


「山崎から言われた書類だ。後は、これが今回の事件の簡単に纏め上げた内容だ。6枚に抑えてやったんだから、目通せよ」
「わかってますよ。事件は片付きそうなんですかィ?」
「なんとも言えねぇな。正直、まだ裏がありそうな気がする。」
「裏?」
「どうも噛み合わせが悪くてな。」
「それを、今土方さんたちは調べてるんですかィ?」
「これがハッキリするまで、まだ片付いたとは言い切れねぇからな。オメェは絶対安静なんだ、寝ながらマヨネーズでも啜ってろ」
「啜んねぇよ」


膝元にある渡された書類を手に取り、一枚一枚目を通す。一番上にある書類は、山崎が調べた、自分を斬った男の素性。それが2枚と、今回の事件の纏めた資料が6枚とある。


「なぁ、土方さん」
「んだよ」
「あの男に妹、居たんですね」
「男?あぁ、お前を斬った男か」
「妹に、なんて」
「まだ言ってねぇ。だが、攘夷派とはいえ人は人だ。出来れば、言葉は選んでやりてぇけどな。」


そう言った土方は、重たい体を立ち上がらせ、ポケットに手を突っ込んで背中を向けた。すると、土方は声色を低くして言った。


「変な気起こすなよ」


そう言った土方が部屋を後にした。


「見透かしてらァ、適わねぇなァ」


そう言った沖田は再度寝転がり、布団を深く被った。目を瞑ると、自分の名前を優しく呼ぶ亡き姉の姿が思い浮かぶ。

沖田は何度か寝返りを打って、布団深く深く頭までスッポリと埋まるほど頭を隠して、そのまま眠りについた。





「隊長、すっかり元気になりましたね」
「元気もなにも、あれから何日経ってると思ってるんでェ。」


沖田が刀の調整をしてるとき、隣に座る山崎が微笑ましい笑みを浮かべた。

あれから、10日が過ぎた。結局、あれから何もわかるわけもなく、ただ土方の考えていた裏はわからず仕舞いで幕を閉じた。

沖田が絶対安静と寝ていた間に、近藤や土方が周りに手を回してくれていたみたいで、親族に本当のことを告げた。

また真選組に敵を回したことになるが、それでも気を回す言い方も酷と判断した結果だった。

山崎がコソッと沖田に教えてくれたのは、自分を斬った男の妹は、まだ20代の若くて綺麗な女の人だという。

だが、その女は目が見えないらしく、土方と山崎が二人で訪れた時、誰だかさえわからないようで、土方は気を利かせたのか、「近くの組との抗争に巻き込まれた」と言ったようだった。


「絶対、姉上と重ねてらァ、あの男。」


その話を聞いた時に、小さく呟いた沖田の声は誰の耳にも入らなかった。土方にとって、それで縁を断ち切るつもりだったんだろうと、沖田は内心確信する。


「そこで俺が変な気起こしちまうからな」


思い出した会話に、言い聞かせるように沖田が呟いた。すると、隣にいた山崎はわけがわからず首を傾げた。








2010/6/1

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