長編【壱】

□いち
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数日前、攘夷派たちが薬を取り扱っていたと耳した真選組が、攘夷派の奴らと激しくぶつかり合い、死者数名と怪我人数名を出す大惨事となって幕を下ろした。

攘夷派の数名かは自害、また数名は真選組の誰かに斬り殺された。そして数える程しかいない怪我人を数名確保した。ただ、真選組も無傷で終わったわけではなく、数名の怪我人を出していた。

「痛い!」そう叫ぶ男は、目に涙を溜めて腕の傷口を押さえていた。どこの隊のものなのかわからないまま、目の前にいた沖田は見覚えのない隊員に呆れた溜め息を混じれて、そっと手を差し伸べた。。


「ほら、立てるか」


見るからに自分より年上の男。その男はどこかホッとしたような、安堵の表情を見せた。だが、それもつかの間。

今まで返り血一つも浴びなかった沖田が、男の目の前で背中から真っ赤に染まっていった。

沖田が男に寄りかかるようにして倒れると、沖田の背後にいた黒い影が姿を表した。


まだいくつも若い青年、見た目だったら土方と同じぐらいの歳だろう。そう思わせる青年が、何の迷いもなく刀を振るった。

ただ冷静に、「迷いがない」。そんな刀の振り方を判断し、体が沈んでいくと同時に、男の顔は薄れていった。

最後の力を振り絞った沖田の刀は、大きな血しぶきを上げて、部屋一帯を屍と一緒に赤に染め上げた。



そして数日後の現在。

あれから幾日が過ぎ、数日間と寝ていた沖田が目を覚ますと、事は全て過ぎ去った後だった。

それでも報告書は未だに片付けられていないみたいなのか、自分の寝室から隣の隣は土方と近藤の話し声が聞こえる。「書類が」とか「攘夷派が」とか、単語からして間違いなさそうだった。

聞きたい反面、ダルい体を起きあがらせるのもダルくて、体を横にしたまま考える。あれから何日経ったのか、攘夷派とは片が付いたのか、最後に斬った男の行方は…。


巡らせる思考を停止させるかのように、静かに開けられた襖が目に入る。横目で見てやると、そこに立ち尽くす山崎が目を丸くして、肩を撫で下ろした。


「隊長!」
「傷口に響く」
「あ、スミマセン」


苦笑を浮かべて謝る山崎に、沖田は口元を尖らせて天井に視線を変えた。


「なぁ、山崎」
「なんですか?」
「あれから、何日経った」



山崎は横になる沖田の隣に腰を下ろすと、気まずそうに口を開いた。



「あれから、2日です。」
「ちっ、2日も寝てたのか。」
「いえ、寧ろ2日しか…ですよ。相当の深手だったので、最低5日は見てたんですから」
「んなに寝ていられるわけねーだろ。で、俺を斬ったヤツァ…」
「隊長が斬った後、隊長が庇ったうちの隊員の者がトドメをさしたみたいです。」
「別に、庇ったわけじゃねぇや」
「でしょうね、たとえ庇っていたとしてもいなくても、隊長ならそう言うと思ってましたから。報告書はソイツに書かせますんで、隊長は寝ててください。」
「もう寝飽きたんだでェ。」
「いいから、絶対安静なんですよ」


沖田はゴロゴロと寝返りを打ちながら、山崎に背を向けて、小さな声で呟いた。


「俺を斬ったヤツァ、身元わかるか?」
「ええ、一応。後でまとめた書類持ってきますよ。ですけど、絶対安静ですからね」
「ハイハイ」


ゆっくりと目を閉じた沖田は、また深い深い眠りについた。





土方がタバコを吸いながら、視線を山崎に向けて再度聞き返した。


「総悟が目を覚ました?」
「はい、凄い回復力で当時の記憶も覚えているみたいです。」


沖田が眠りについたのを確認すると、山崎は部屋を後にした。そのまま向かったのは、その隣の隣にいる土方と近藤んの元だった。

書類をまとめあげる二人は、この2日間寝ずを繰り返していた。上に報告するにも、纏め上げる言葉が思い浮かばない。

積み重なる書類が少しだけ捲れ上がる。山崎が開けたドアの隙間風で、軽い紙切れたちが真っ先に反応した。

沖田が目を覚ましたという朗報を受け、近藤が疲れきった顔に嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そうか、よかったよかった」


心の奥底から安堵している近藤に、山崎も笑みを浮かべた。土方は表情変わらず、タバコを一吹きした。


「アイツは?」
「また寝始めました。絶対安静なので、このまましばらく寝かしてあげた方が…」
「そうだな、しかし総悟の背中を取って斬るとは、斬ったヤツァなかなかの腕前だったんだろうな、トシ」
「まぁ、確かにな。アイツがあんな深手負うなんざ思いもしなかったからな」


土方が苦い笑みを見せた時、山崎が気まずそうに話を切り出した。


「どうやら、隊長を斬った男なんですが、かつて攘夷浪士の高杉や桂と肩を並べていた凄腕だそうです。」
「高杉や桂…だと?」
「しかも、あの若さで両親を亡くして、妹と二人暮らしだそうです。」
「あ?だからどうしたんだ」
「あ、いや…なんか隊長と似てますね。」
「似てるたァ、どういうことだ」
「いえ、なんか家族が妹一人というところが…、姉上のみつば殿がいた隊長と…」


書類を読み上げながら呟く山崎に、近藤が静かに首を振った。


「言ってやるな、ザキ。」


その言葉に、山崎はただ「はい」と返事を返すことしか出来ず、部屋を後にした。










2010/5/29

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