青春は止まらない

□#4 塾通いの少年
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「浩一!どうして、今日途中で学校から帰ったりしたの!」

「だって、先生が…」

「先生のせいにしないで!貴方がそんな事するから、先生、仕事場まで電話してきたのよ!!」

「………」

「そのせいで、お母さん恥ずかしい思いをしたわ!!」

「…………っ!」

「これからはこんな事しないでよね!解った!?」

母親は言いたい事だけ言うと、部屋から出て行った。
浩一の話しを一切聞かずに。

「なんで…、なんでぼくのはなし、きいてくれないの?」

おかあさん…。

浩一の呟くような声は、部屋へと溶け込んだ。
彼は瞬きもせず、ボロボロと両の目から涙が溢れ落ちた。

翌朝、母親は浩一の分の朝食を用意すると、何も言わず仕事に出た。
浩一はそんな母親の背を、寂しそうな目で見送った。

(何も言ってくれなかった…。お母さんは僕が嫌いになったんだ…)

悲しくなり、食欲も無くなった浩一は箸を置いた。
後片付けをしてランドセルを背負うと、いつもより遅い時間に家を出る。
ランドセルは昨日のうちに、家が近所のクラスメートが届けてくれていた。

(学校になんて行きたくないなぁ、どうせ先生はまた同じ事を言うんだろうし…)

浩一がゆっくりと通学路を歩いていると、周りには誰も居なくなっていた。
そしていつもの十字路に来た時、彼は右に曲がる所を左に曲がった。

最初はゆっくり歩いていたけど、徐々にはや歩きから小走りになり、遂には走って学校から離れて行った。

(ハァハァ…、どうしよう、学校サボっちゃった。また、お母さんに怒られる…!)

浩一は学校からかなり離れた公園まで来ると、ベンチへと座り休んだ。
ベンチの上で膝を抱えていると、そこに一匹の猫が近づいた。

「あ、猫…。どうしたの?キミも一人?」

“ニャア”と猫は鳴き、浩一の隣に座った。

「え、あ…さ、触っても良いかな?」

猫は浩一の言葉に、また“ニャア”と返事をするかのように鳴いた。

「うわぁっ!思っていたよりフワフワしてる!…もしかして、キミは飼い猫なの?」

その言葉には鳴かず、猫は浩一の手に頭を擦り付けた。

「違うの?ならキミは人懐っこいんだね。…あのね、ネコさん聞いてくれる?」

猫は浩一の言葉が解るかのように、黙って浩一を見上げた。

「僕、お母さんに嫌われちゃったみたい…。何でかって言うとね、昨日すごくイヤな事があったんだ。…『家族』をテーマにした作文の宿題を、提出日になっても僕は出せなかったんだ」

猫は一回も鳴かず、大人しく撫で続けられる。

「でも、僕はその作文を出したくなかったんじゃない!ただ、何を書いたら良いか解らなくなったんだ…!」

浩一はホロホロと泣き出した。
頬を濡らす涙を拭おうとはせず、猫を撫でる手は止まらない。

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