青春は止まらない

□#4 塾通いの少年
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島田 浩一(シマダ コウイチ)の日常は退屈だった。
平日は朝から学校に行き、放課後になると塾に行く。
休日になると、学校の部分が塾に代わるだけでなにも変わらない。
彼は今年で十二歳になる。そしてそんな生活をもう、四年も続けている。

最初の頃は遊びに誘ってくれてた友達も、最近じゃ何も言わない。
今じゃ「島田誘ってもムダだよ。塾の方が大事だから」と言われる。
本当は浩一だって勉強するより、皆と一緒にサッカーしたり、TVゲームをしたいと思っている。
でもそれは、彼の母親が許してくれない。

浩一がこんなに、辛い思いをするようになったのは四年前、父親が彼と母親を捨てて女の人と出て行ってからだ。
それからの母親は、人が変わったみたいに浩一に『あの男みたいになっちゃ駄目。貴方は真面目に生きなさい』と言い続けた。

浩一は最初の頃は、父親が大好きだったから納得出来なかったけど、段々捨てられた事や母親が変わってしまった事を理解すると、母親の言う通りにするようになった。

でも最近の彼は、それに納得出来なくなってしまった。――周りの皆はあんなに自由なのに、どうして僕だけこんなに辛い思いをしてるのか――そう考えるようになっていった。
それでも、そんな気持ちに蓋をして何とかやり過ごしていた。

でもある日、我慢出来なくなってしまう出来事が起きた。

それは学校の宿題で、『家族』をテーマにした作文を書くという事だった。
浩一の学年・クラスには、同じように片親しかいない子は何人かいた。
けれどもその宿題は出され、提出日には提出された。
だけど彼には、宿題を提出する事が出来なかった。
他の子はキチンと出していたけど、最後まで出す事はなかった。

さすがに担任も可笑しいと思い、昼休みに彼を呼び出した。

『他の子は書けたのに、どうして浩一くんは書けないの?』
『みゆきちゃんやタカシくんも書いたんだよ?』
『浩一くんはお母さんが嫌いなの?』

そんな教師の言い方に浩一は泣きたくなった。
母親を嫌いな訳じゃない、ただ何を書いたら良いか解らないだけ。
なのに教師は、まるで彼を見下すように言った。

浩一は無我夢中で職員室から脱け出し、靴を履き替えて学校を飛び出した。

気づくと浩一は家にいて、自分の部屋で泣いていた。
膝を抱え、声を上げずにひたすら泣き続けた。

いつの間にか寝ていた浩一は、母親がドアを開ける音で目が覚めた。
母親は彼が起きているのを確認すると、いきなり叱った。

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