†BOOK†RE†

□嵐の夜に Part1
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『今日は夕方から雨が降り始め、夜には大雨となるでしょう。地域によっては雷をともなう激しい嵐になります。津波にご注意ください』

ニュースの内容とは裏腹に口元に小さな微笑を乗せた女の機械的な声が響く。
天気予報なんて当たらないなんて思いつつも学校に行くのに折畳みのかさを鞄に入れる。普段は鞄なんか邪魔なだけだから持たないけど、たまにはいいだろう。どうせ教科書やらなんやらは学校だ。
いつも通り十代目をお迎えにあがり、学校へ向かう。学校ではいつも通り屋上でさぼるか教室で堂々と寝るか。
夕方、学校が終わり、家路につくが、予報は外れて雨なんか降ってない。それどころか雨なんて降る様子もない。空は雲一つなく晴れ渡っている。
だからその日はいつも通りの何事もない日だと思っていた。

「でっ!!なんで夜になって突然大嵐になるんだよっ!!バカやろー!!!!」

くそっ。情けない話だが、俺は嵐が嫌いだ。まあ、俺自身は嵐の守護者なんだけど。それとこれとは関係ない。

昔イタリアで城を飛び出した頃、嵐に襲われた。轟々と吹き付ける風。あびるだけで人から体力と気力を奪う雨。雷があちらこちらで鳴り、建物の間から覗く空はピカピカと光っていた。それらは幼い俺の恐怖心を煽った。ひたすら怖くて、周りには誰も縋れる人がいなくて、猫の鳴き声さえ不気味に聞こえ怯えることしかできなかった夜。もう少し大人だったら、なんてことなく耐えられた程度のものだろう。だがその時の俺は、不運なことに城を飛び出したばかりだったその当時の俺はまだ8歳くらいだった。
それがトラウマで嵐の夜は今だに怖い。一人になるとどうしようもなく怖いのだ。何だか嵐に呑まれそうで動けなくなる。

「くそっ」

悪態は吐いてみるものの心のなかは恐怖でいっぱいだ。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い

そのとき窓ががたがたと震えた。窓が外れそうな勢いだ。もしあれが開いたら・・・。きっと風と雨が吹き込んできて、雷の音が鮮明に耳に響くだろう。
いやだ。それは無理だ。
外れそうなくらい揺れていた窓は唐突に派手な音をたてて割れた。

「嫌だぁ----------!!!!」

割れた瞬間自分の口から悲鳴が漏れた。俺はそれを遠くから聞いているような気分だった。知らず知らずの内に目から涙が流れる。
壊れたようにいやいやと首を横に振り続ける。
そのときそっとだが力強く誰かに抱き締められた。
ずっと求めていた温かで優しい温もり。安心する匂い。わけも分からずとりあえずそれに縋った。
 

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