†BOOK†RE†
□ご覧僕のオッドアイ
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昼下がり、いつものようにオレは執務室で仕事に追われていた。
「終わらないよこれ」
さっきから幾度となく繰り返された独り言。無理もない。朝からずっと、それこそ昼ご飯を抜いてひたすら処理しているのに、オレの目の前の書類の山は一向に減る気配がないのだから。更にいつもならこんな時オレよりも手際よく仕事を処理してくれるオレの右腕である獄寺君は今日はイタリアに行ってていないし、書類処理が得意でも雲雀さんは頼んでも手伝ってはくれない。いつもなんだかんだで手伝ってくれる恋人の骸も今は任務で出払っていて少なくともあと2、3日はボンゴレ本部に帰って来ない。本部にいるのはオレと山本と京子ちゃんのお兄さん、それにリボーンのみで、オレの部屋は人の出入りがほとんどない。オレはずっと1人で椅子に座ってひたすら書類の山と睨み合っている。リボーンがたまに部屋に来るけど、毎回「集中しろ」だとか「仕事が遅い」だとか「早く終わらせろ」って言うか、後はちゃかしてくるだけだ。つまり邪魔しに来るだけ。ほんとだれでもいいから手伝ってほしい。それが無理ならば、せめて気を紛らわせてほしい。
そんなとき、突然控えめなノックの音がした。
「どうぞ」
どうせまたリボーン辺りがちゃかしにやってきたのだろうとおもいぶっきらぼうに答えた。すると扉が焦れったいほどゆっくり開き、入ってきたのはここにいるはずのない骸。
ああ、恋しさと忙しさのあまりオレはついに幻覚を見ているのかと少し気が遠くなったが、すぐにそれが嘘だと証明された。後ろから抱きつく様に首にまわされた骸の腕によって。見上げたオレの唇を掠めた骸の唇の温もりによって。正面から見据えた骸の顔はいつになく泣きそうだった。
「どうした?」
つい気になってオレが尋ねると、骸は少しの沈黙の後静かに答えた。
「任務で敵本部をたたき、壊滅させました」
その一言でオレは敵本部は生存者が0なのだと理解した。
うつむいた骸は小刻みに震えていて、見兼ねたオレはその男にしては華奢な体をやさしく抱き締めた。いくらそのファミリーが裏切り者であるといえども、マフィアに裏切り者には死をなんていう掟があったとしても、人を殺すのは躊躇われた。なにより大切なファミリーの仲間に殺しをさせたくなかった。特に人を殺すことになれたこいつには。でも結局そんなオレの甘さが大切な人を傷つけてしまうのだ。そんな罪悪感からかけることばが見つからなくてただ骸の震えが止まるまで黙って抱き締めることしかできなかった。
重い沈黙がおちるなか、先に口を開いたのは骸だった。
「放してください、綱吉くん」
「え?」
あまりの唐突さに真意がつかめずに聞き返した。
「放してくださいといったんです」
骸は少し声を荒げていった。
「どうして?」
オレが問うと骸はすこし顔を歪ませて答えた。
「僕が・・・僕が汚いからです!今までにたくさんの人を殺しました。たくさんの人の返り血を浴びました。綱吉くんはきれいでっ!だからっ・・・んっ!」
つらそうにはきすてるようにしゃべる骸の口を己のそれで閉じ、無理矢理黙らせた。もうそんな辛い事は話さなくていいよ、と。
骸はオレの行動に驚いたようにこちらを見てきた。
「骸は汚れてないよっ!手を下したのがお前でもそれを命じたのはオレだよ?オレの甘さが、お前がやらなくちゃいけなくさせてたんだ。だからオレだって同罪だよ」
そういうと骸はまた泣きそうな顔になって、震える声で叫んだ。
「あなたはしらないんですっ!僕の汚さを。僕のこの目の色の意味を!!!!」
「目?」
「えぇ、目です。僕のオッドアイの右目の赤は血の赤なんです。僕が殺してきた人たちの血。そして僕の罪の色。左目の青は冷酷非道の青。いつでも冷静に、冷酷さを忘れないように・・・そういう戒めの色なんです」
そう言って骸は再び震え出した。オレは黙ってまた骸を抱き締めた。骸が嫌がるように体を動かしたから、オレは一際強く抱き締めた。
「違うよ、骸。お前の右目の赤は愛の色。誰かを愛して、大切に思う優しくて暖かい色。そして左目の青は大空の色。広く澄み渡った青空の色だよ。つまりはオレの色」
おどけたように微笑むと骸は驚いたように目を見開いた。オレは骸の表情が動いたことに安堵した。
「何を言っているんですか。それは僕があなたに出会った後のお話でしょ?」
「いいじゃん。骸にどんな過去があるか、どんな辛い目に遭ってきたか、オレにはわからないし、想像もつかないよ?でも、骸にとって過去より今のほうが大事でしょ?」
そういって優しく頭を撫でてやると骸は擽ったそうに微笑った。
「クフフ・・・ありがとうございます。僕はあなたに二度も助けられてしまいましたね」
「二度?」
「はい。一度目はあの音も聞こえない、光も届かない水牢の中から。二度目は今。最初は体で、今度は心」
ね?二度でしょう?とさっきまでの思い詰めていた顔が嘘だったかのように落ち着いた顔で言った。でもまだ、笑っているはずなのに、どこか表情が堅い。どうしたらいいのか分からなくて、オレはとりあえず触れるだけの優しいキスをして、抱き締めたままの態勢で言った。
「愛してるよ、骸」
すると骸は今まで我慢していた涙を流して艶やかに微笑んだ。
「僕も。僕も愛しています、綱吉くん」
そして今度は骸からキスをした。
ほらね。右目の赤は愛、左目の青はオレでしょ?
ああ、でも本当に救われてるのはオレの方だよ、骸・・