†捧げ物†

□取持つは、蝶
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「何?孫はん、浮気でもされたんえ?」
「違っ……別にそんなんじゃないよ、姐さん」
困った様に頭を掻いている様子を笹舟は笑う。昔からこの姐女郎には弱いのだ。
「誰にも言わへんさかいに、話したってみたらどや?孫はん。少し話したらすっとするよって」
髪を結い終えた笹舟は隣に歩み寄り優しく背中を撫ぜる。
そう言われれば昔馴染みのこの遊女の勝ちだ。
思い出すのも苦々しい思いで、のっそりと語り出した。















雑賀の里の若太夫である雑賀孫市は久々に京に来ていた。堺の町で愛用の得物の調子を整えてやり、その帰りにこの町にある有名な団子屋のみたらし団子でも食べて帰ろうと寄ったのだ。
しかし、思えばそれが間違いだったのかもしれない。
あれを見てしまったのだから。



その有名な団子屋に着き、店の看板娘に茶と団子を頼んで寛いでいると、見知った金色の髪が目の前を通った。



言わずと知れた傾き者、戦国の金獅子、前田慶次。
彼は友人でもあり、それ以上の特別な感情を抱くこの雑賀の若太夫にとって貴重な気の許せる人物だ。



何時もの調子で話し掛けようと手を上げたその時。










彼は見てしまったのだ。
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