†捧げ物†

□取持つは、蝶
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「自棄に色っぽい溜め息吐いてはるなぁ、孫はん」
「勘弁してくれよ、姐さん。そんなんじゃないんだって」
ある遊廓の一室で鏡台を前に髪を結う遊女と思しき女と、だらしなく足を広げて寛ぐ男がいた。
さぞかし色香漂う雰囲気かと思えばそんな空気は欠片も無く、ただ微睡む様な緩やかな時間がダラダラと流れるだけだ。





孫、と呼ばれた男は傍に置いてあった煙管に刻み煙草を詰めて火を点すと、ふわりと揺れる煙を見つめて吸い始める。遊女はその煙たさに少し顔をしかめた。



「なぁ、笹舟姐さん」
「はいな」
「姐さんは好いた男が他の女と接吻してたら怒るか?」
「まぁ…訳によって、どすな。相手はんも魔が差したんかもしれへんし…うちのにも非はあったんかもしれへん。もしそやったらうちは許さへんけど」
艶やかに笑う女の目には唇に貼り付けた様な笑みは無い。美人な女程怒らすと怖いものは無いと実感させられた。
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