†捧げ物†

□今までで最高のノエル
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今年こそ、と毎年期待して、結局虚しさだけ。
今年もきっとそうだろうと勝手に思っていた。












―今までで最高のノエル―












コンコン。
「失礼致します、政宗様。お荷物をお届けに上がりました」
「入れ」





また今年もかと政宗は人知れず溜め息を吐いた。
入って来た執事兼教育係の小十郎の手には小さな小包。




「やはり今年もお父上様は御帰宅出来ない様でして…代わりにこれをと」
「分かっておる…済まぬな、こじゅ」
心底残念そうに気遣わしげな言葉を投げ掛け、部屋を出て行く執事に労いの言葉をかける。
分かっていた。頭では父は帰って来ないだろうと。
代議士である父は年末は特に忙しい。
特に今年はもう直ぐ総選挙かという憶測も飛び交っていて特に忙しそうだった。
冬休みで帰宅したのに父の顔は全く見ていない。
政宗は課題をこなす手を止めてぼんやりと宙を見た。




父もいない、母もいない、勿論弟も……ひとりぼっちのクリスマス。これを何年繰り返したのだろう。そして今年も…と思っていた瞬間、再びノックの音が響いた。







「失礼致します、政宗様」
「どうした?」
「お友達がいらしておりますが…確か、真田幸村様と仰る方がお見えになっておられます」
政宗はその名前に椅子から慌てて飛び降り、玄関に向かった。






―幸村が来ておる…!?






逸る気持ちを抑え切れずに玄関に着くとそこには黒のコートに赤いマフラーを着込んだ幸村が立っていた。
「メリークリスマス、政宗殿」
「な、何故…」
「何故って…クリスマスを恋人と過ごしたいと思ったまでですが?」
ニッコリと爽やかに微笑まれ、2つの爆弾に政宗は思わず耳まで朱に染め上げる。
「こ、こい……!?っば、バカめっ!」
思わず恥ずかしくなって踵を返して走り出す。幸村は黙ってその後ろ姿を見つめていたが、急にピタリと止まって声が掛かった。




「…早く上がれ。風邪引くぞ」
「では、お言葉に甘えて」
可愛い恋人の可愛い気遣いに幸村は笑みを深くしながら政宗の後を着いていった。










「急にどうしたんだ、いきなり訪ねて来るとは貴様らしくないな」

小十郎が運んで来たお茶を飲みつつ尋ねてみると幸村は少し切なそうな表情で真面目に答えた。
「以前政宗殿から…御母君と弟君を亡くされたとお聞きして…御父君も代議士…でしたよね?ですから…」


――ああ、きっと、優しい優しいお前は、真っ先に気付いて、駆け付けてくれたのか。




「平気だ…慣れておるからな」
「しかし…」
「あの時も言うただろう?こじゅも成実も綱元もいると…だから平気じゃ」
「…では、私が来たのはご迷惑でしたか?」
そんな瞳で見てくるな。政宗は頬が熱くなるのを感じながらカップに口を付け小声で呟いた。




「だが……幸村が来てくれて……嬉しいとは思っておる…」
「政宗殿…!」
政宗の一言に喜色満面の笑顔を浮かべた幸村は持っていた大きな箱を差し出してきた。
「何だ?」
「クリスマスプレゼントです。開けて見て下さい」
幸村に促されてラッピングのリボンを外すと、そこには上品なフォルムに赤と緑のリボンがデザインされたをしたティーカップが2客。
「偶見つけたのですが…本来ならクリスマスカラーのセットなんだそうです。しかし私には政宗殿と私の色に見えまして…」
「え?」

「政宗殿の好きな緑と、私の好きな赤。このカップの様に並んでいれたら良いなと思ってつい買ってしまいました」
照れた様に頬を掻く幸村に政宗はどうしたものかと項垂れた。




幸村が来ると知っていたら前もってクリスマスプレゼント位は用意していたのに、自分は何もあげられない。
政宗は頭を巡らせ、何かあげられるものは無いかと模索し、思い立った様に立ち上がり、デスクの中の細長い箱を差し出した。
「幸村、これをやる」
「え?」
「これは…父上から頂いた万年筆じゃ。片方は本当は…死んだ弟にやるものだったはずなのだが…クリスマスの前に亡くなったのでな。儂に2本ともくれたのだ」
「そんな大切なものを…頂けません」
「良い、幸村に…貰って欲しい。儂が持っていても…使えずに腐らせるだけだからな」
政宗の顔には後悔も何もない。
幸村は神妙な面持ちで受け取り、箱を撫でた。





ビロードで出来た上質のケースは父親の想いが込められているのが窺える。
中を開けると綺麗に納められた万年筆が滑らかに光っていて、少しだけ切なく、また温かくなった。
「…大切に致します」
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