小説/とらちゃんシリーズ

□近藤動物王国におけるトシの逡巡 全6話
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その日、土方が屯所の廊下を歩いていると、近藤が庭先に座ってとらちゃんシバくんとたわむれているのが見えた。とらちゃんは近藤のすねに飽きることなく顔をすりすりし、シバくんは前脚を近藤の膝にかけ、なにが楽しいのだかぐるんぐるん尻尾を振っている。近藤は「今日もふたりとも元気だなあ!」と笑顔で2匹をなでくり回している。
(若い女以外の生命体にはもてるよなあの人…女だってガキと年寄りからは慕われるし)
土方は相変わらずこの2匹とスマートな付き合い方ができない。距離感もつかめないし、なにを話せばいいのか、どう触ればいいのかもわからない。そういうぎくしゃくした空気は相手にも伝わるのか、とらちゃんは土方とばったり遭遇するたびに硬直し、その後弾かれたように庭の茂みにすっ飛んで行くし、そうかと思えば恐怖刺激に興奮するのか、妙に勝ち誇った態度で近藤の部屋からゆっくり立ち去ったりする。シバくんは基本的に近藤も土方もそのほかの隊士も攘夷浪士もみんな大好きなので、土方にもダッシュで近づいて来る。そしてぴょんぴょん飛び跳ねて前脚で土方の隊服を汚し、鬼の副長に怒られてもまったく動じないばかりか、厨房でいいにおいでもすると、説教を受けている最中であろうがその場を平然と立ち去って土方を呆然とさせたりする。
(俺は若い女にしかもてねえ…あ、あと近藤さん)
土方の心の声を誰かが聞いたら、あまりに高慢なその呟きに張り手のひとつでもしたくなったかもしれない。けれど本人はいたって本気だった。
(近藤さんはどうして言葉の通じねえ生き物とあんなに仲良くなれんだろ…俺は言葉が通じる生き物とすらあんまうまくいかねえのに)
局長へ向ける眼差しを万人に向け、マヨとニコチンの摂取を1/3以下に抑えたら、元来持つ色香に老若男女ふらふらですと、周知の事実を土方に伝えることのできる心臓の持ち主はいない。それを平然と口に出せる数少ない人間である近藤は「ライバル増やすのいや」と言うつもりなど毛頭ないし、沖田は「温厚な土方さんなんて気味悪りぃ」と論外だ。
それでも土方にだって人間らしい感情はたっぷりある。すなわち、決して口には出せないが、小動物とスキンシップとか、コミュニケーションとか、近藤のようにたわむれるとか、そういったもろもろにときには少しばかり憧れる、というか。けれど動物を飼うことを禁止している屯所に2匹がいるという事実や、とらちゃんとの近藤を巡る度重なるバトルを思い起こすと、土方のプライドがぐぐっと首をもたげる。向こうから歩み寄ってくるならまだしも、自分から動物に媚を売るなんて考えられない。
(いやでも、近藤さんはあいつらに媚売ってるようには見えねえよな…お互いに仲良しって感じだよな…すげえ自然体!)
認めたくないが、土方は近藤がかなりうらやましい。
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