小説/とらちゃんシリーズ

□とらシバは見た 全2話
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とらちゃんとシバくんは厨房の勝手口でてんこ盛りの夕飯をもらい、満ち足りた思いで屯所の庭を歩いていた。
ここはむさい男だらけだが、屯所の外で殺伐とした隊務をこなすこともあるせいか、小動物には誰もがやさしい。とらちゃんとシバくんは隊士たちからかわいがられ、とらちゃんの毛は以前に比べて見違えるようにつやつや&ふわふわになり、シバくんはおいしいものを食べ過ぎてちょっと太った(それでも相変わらずふたりは小さい、骨格的に)。庭を小さなふたりが並んで歩く姿に、隊士たちは癒された。
ふたりが一番好きなのは、もちろんおっきな人だ。とらちゃんのこともシバくんのことも、うるさい人の猛反対を押し切って屯所で暮らせるようにしてくれた。白衣を着た人にプスリと痛いことをされたのだけは納得できないけれど、ふたりお揃いの首輪とネームプレートも買ってくれた。
だからふたりはしょっちゅうおっきな人のところへ行く。シバくんが縁側の下でワンと一声吠えて呼ぶこともあるし、とらちゃんが障子の隙間から入り込んで縁側に誘い出すこともある。するとおっきな人は机に向かってなにかしているときでもかならず筆を置いて出て来てくれる。そしてふたりが十分満足できるまでおっきな手でなでてくれるのだ。とらちゃんは顎の下、シバくんは耳の後ろをかかれると、あまりの気持ちよさに顔が傾いてしまう。
お腹もくちくなったことだし、ふたりの足は自然とおっきな人のところへ向かう。
ところがおっきな人のところには先客がいた。うるさい人だ。鼻のいいシバくんが部屋の前にたどり着くより先に気づきとらちゃんに伝え、ふたりはちょっと困って庭先で立ち止まった。
うるさい人はおっきな人の部屋によくいる。あのふたりはとらちゃんとシバくんのように仲良しだ。どうしておっきな人がうるさい人の相手をしてあげるのか、ふたりは理解に苦しむ。
突然、薄く開いていた部屋の障子が開き、おっきな人とうるさい人が出て来た。庭は暗いうえにふたりの姿は茂みに隠れているので、向こうからこちらはよく見えないようだ。おっきな人とうるさい人は縁側に座っておしゃべりしながらなにか飲み始めた。ふたりはなんとなく出て行くタイミングを逃したような形になり、茂みの影から縁側のふたりをのぞく…と、そのとき。
(アッ!)
とらちゃんとシバくんはびっくりする。うるさい人がおっきな人に向かって笑いかけていたからだ。
(ワラッテル)
(ワラッテル)
ふたりはいま見た衝撃の映像を確認しあう。うるさい人でも笑うことがあるのか!
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