小説/とらちゃんシリーズ

□近藤王国の崩壊 全4話
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その日、近藤は屯所へ戻る道を足早に急いでいた。その手には大きな体に似つかわしくない、小さなかわいらしい紙袋が下げられている。中身は近藤からとらちゃん、シバくんへの贈り物だった。
シバくんもさりげなく、しかし確かに屯所の庭に居つくようになった。先日はとらちゃん同様、病院に連れて行かれ、予防接種やらフィラリアの薬やら飲まされて、帰って来てからいつもより豪華な食事をもらった。シバくんの登場によって犬派の隊士も癒されるようになり、特に事件がないときの屯所の空気は明らかに以前よりも穏やかになった。
(犬や猫が病院とか老人ホームとか行って人を励ましたりしてんもんな。生き物ってやっぱすげえわ。トシはいまだに納得してねえけど、ま、なんつーかありゃ、かわいい嫉妬ですから。あーかわいい)
近藤はとらちゃんばかりかシバくんとまで本気モードでやりあっている土方がおかしくて愛しくてしょうがない。今日買った2匹おそろいの首輪を見たら、またどんなにむくれることだろう。以前とらちゃんやシバくんに対する悋気をからかったら、土方は鼻で笑って「なに言ってんだ、どうして俺が犬や猫相手に妬いたりすんだよ。近藤さん、意外に想像力豊かなんだな。それか自信過剰なんじゃねえの?」とほざいたのだった。
(あの演技派め…!いつも全力でとらちゃんを怒鳴りつけてるくせに!俺の膝にとらちゃんが乗ってるとあからさまに機嫌が悪くなるくせに!俺がシバくんとフリスビーしてると大した用じゃねえのにすぐ呼び出して中断させるくせに!ああもう、なんてかわいい奴!)


「あ、おかえりなさい局長。今日は非番なんすか?」
「うん。な、とらちゃんとシバくんどっかで見かけた?勝手口?それとも俺の部屋のほうの縁側?」
「ああ、そういえば副長と一緒にいるのついさっき見かけましたよ。珍しいこともあるもんっすね」
「は?トシと一緒?」
俺は言われたことが今ひとつ理理解できないまま部屋へ向かう。トシととらちゃんとシバくんが一緒って、なんだよそれありえねえだろ。まさかトシ、動物に対して実力行使に出てんじゃねえだろな? いやいやさすがにそれをしたら俺が許さないのわかってるし、トシは動物虐待するような鬼畜じゃねえ。ん?じゃ、なんで一緒にいんの?そもそもとらちゃんもシバくんもトシにはあんまり近づかねえのに。
腑に落ちない思いで廊下の最後の角を曲がろうとしたとき、トシの声が聞こえて来た。そういえば前もここでトシととらちゃんがやりあってる声を立ち聞きしたことあったなあ。
「ハハハ、やめろよくすぐってえだろ、舐めんなってば。なんだよシバ、お前ガキでもねえのにやんちゃだな」
…は?
「おいおいとら、隊服に毛がつくだろ?膝に乗るなよ甘ったれめ。ああ、そんなにすりすりすんなって。まあ後でコロコロすりゃいいか」
…はあ!?
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