小説3

□おしゃれ局長 全2話
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土方はそわそわと落ち着かない様子で意味なく屯所のあちこちを歩き回り、周囲の隊士たちを怯えさせている。もちろん本人の眼中にはそんな隊士の様子は目に入らない。頭の中は、今頃部屋で支度を整えているであろう近藤のことでいっぱいだ。
(真選組もとうとうここまで来たんだ。式典の警備じゃなくて式典に参加!近藤さんが!真選組の代表として!)
土方が興奮するのも無理はなかった。毎年この時期、各星の代表が地球にやって来て、恒久的な宇宙平和のために人種や文化の垣根を越えて協力しあうという「宇宙平和宣言」を発表する。言っていることはいつも同じなのだが、宣言の中身よりも主要な代表が定期的に一堂に会するということ自体が大事なのだ。
天人を受け入れている数が多いということで、会場は地球、しかも江戸と決まっている。真選組は毎年この式典の警備を行っていた。しかし今年からは、各国の代表はその国の警察が護衛するということになり、真選組の負担が減り、全隊士を投入する必要もなくなった。そのためなのか、今までは警備担当として参加していたこの式典に、近藤は江戸の武装警察の代表として参列するよう、幕府からお達しを受けたのだ。国家元首クラスが顔をそろえる場所に近藤もいるとは、土方は興奮と感動でほとんど舞い上がっている。
(見廻り組でも奉行所でもねえ、真選組が代表だ。これまで必死に走ってきた甲斐があったってもんだ。でもいざ声がかかったとき、どっかにしまい込んでた正装が見当たらなくて随分探したけどな)
土方は思い出してくすりとする。横目で見ていた隊士たちがまた怯えた。
(そうだ、近藤さんも付け慣れてねえもん付けたりするから着替えに困ってるかもしれねえな。俺が手伝わねえと)
そこに思い至り、今度はものすごい急ぎ足で近藤の部屋に向かう。
「近藤さん、着替えどうだ。終わったか」
「おお、トシか」
廊下から声をかけると近藤の返事があった。障子を開け、部屋に入る。
「なんか手伝うこ…」
土方の声が途切れる。目の前の近藤はいつもと同じ隊服を身にまとっているのに、まるで別人のようだった。
普段は決して閉じられることのない上着の前裾は行儀よく閉じられ、左右対称の柄がきれいにくっつきあっている。首元のスカーフもいつもに比べてほんのわずかしかのぞいていない。第二ボタンと右肩にかかって揺れているのは、太い三つ編みの飾緒だ。腰には飾帯と呼ばれる太いベルト、脇に備えられているのはいつもの虎徹ではなく儀礼用の軍刀。柄頭からは刀緒(とうちょ)が下がり、普段振り回している得物とはまったく異なる雰囲気を醸し出している。しかも真っ白な手套を手にしているではないか。
「式典に虎徹っちゃん持ち込めねえんだよ、軍刀っていや聞こえがいいけど竹光だからな、なんか落ち着かねえ」
「…」
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