小説2

□半端じゃない信頼 全1話
1ページ/1ページ

「副長、局長が攘夷浪士に襲われてます」
隊士のひとりが息を切らせて屯所に飛び込んで来た。ちょうど玄関そばの部屋で山崎からの報告を受けていた土方が、弾かれたように立ち上がる。山崎も土方の後を追い、玄関へ走った。
「どこだ」
「ここから5分くらいの地蔵坂の路地です。相手は3〜4人います」
「そいつら飛び道具持ってたか」
「いいえ、刀だけです。局長が俺に、ここはいいから副長に知らせろって」
それを聞いた土方の顔からこわばりが消えた。小さく息を吐き、まだ息が苦しげな隊士に「わかった。ご苦労」とねぎらいの言葉をかける。
「ふ、副長、局長のところ行かないんですか」
「そりゃ行くさ」
「じゃあ早く行かないと!」
若い隊士はなぜ土方がそんなに余裕しゃくしゃくなのか、わけがわからない。真選組局長の危機だというのに、副長はなにを悠長に構えているのか。こうしている間にも、局長が斬られているかもしれないというのに。
そんな焦りやとまどい、不審が表情に出ていたのか、隊士の顔を見て土方が唇の端を上げる。それから山崎を向き「支度しろ」と手短に言った。山崎はそれだけですべて承知なのか、軽く頷ききびすを返す。
ますます混乱を深めた隊士に、土方は懐から煙草を取り出しながら説明してやる。
「近藤さんがお前を屯所に寄こしたのは、救援呼べってことじゃなくて後始末頼むってことだよ。機関銃出されちゃこうのんびりしてるわけもいかねえが、得物が刀だけってなら近藤さんの敵じゃねえ。しかもせまい路地にそんな人数で入り込む間抜けどもだ、ろくに動けねえうちに近藤さんにやられてるさ」
「あ」
「それにお前を現場から離れさせたのは、お前をかばいながら立ち合うほうが面倒だったせいもあるんだぞ」
「…あ!」
隊士は絶句する。浪士たちに囲まれた局長が輪の外にいた自分に「トシに知らせろ」とだけ言ったのは、そういう理由からだったのか。
「俺は、てっきり局長が救援を頼むために副長のところへ行かせたのかと…」
うまそうに煙を吐きながら土方が返す。
「あんまり自分のとこの大将、甘く見んなよ。真剣抜かせたあの人にかなう相手はそういないぜ」
「すみません…」
そこに山崎が戻ってきた。
「準備できました。奉行所にも連絡済みです」
「よし、行くか」
すでに正門には山崎が揃えた数名の隊士が現場処理のための支度を整えて待機している。その早技に唖然としている隊士をそこに残し、土方と山崎は玄関を出て行った。
(監察方、仕事早ぇ…)
残された隊士はすでに誰の姿も見えなくなった門を眺めながら思う。
(それに副長は局長のことほんとよくわかってんだな…局長のこと話してるとき、なんか得意げだったよ?なんで?)
そこまで考えて隊士ははっとわれに返り、近藤がとっくに収めただろう現場へ自分も戻るべく、慌てて玄関を飛び出した。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ