小説3

□近藤さんとクリスマス 全2話
2ページ/2ページ

「トシ」
「……」
目の前に近藤さんの顔がある。サンタじゃない、見慣れた寝巻。…夢か?
「…夢…」
どうやら夢を見ていたらしい。自分の部屋の自分の布団で寝てるってことは、寝言でも耳にした近藤さんが心配して来てくれたってことか。俺は起き上がって近藤さんの姿をもう一度確かめる、今度は全身。大丈夫、ただのいつもの寝巻だ。上半身がサンタで下半身がトナカイなんて着ぐるみ、着てねえ。
「変な夢見た…俺なんか言ってた?」
「大声で名前呼ばれたもんで、慌ててきたらトシ寝てるから驚いた。夢に俺、出てきた?」
「…ちょっと」
よかった、夢だった。クリスマスイブに近藤さんが公衆の面前で赤恥晒すなんて耐えられねえ。しかも俺はご満悦だったよ夢の中で!総悟のほうが正しかったじゃねえか!
「なあなあ、最高だ近藤さんって叫んでたんだけど、どんな夢? 超気になるんですけど」
「忘れてくれ。俺も夢の中のことは忘れる」
「なにそれ」
近藤さんは今ひとつ不満そうだったが俺の顔がこわばっていたのか、それ以上突っ込んでは来なかった。部屋の明かりをつけて「もう朝だぞ」と言う。
「今日はイブだなあ。町ん中のカップル率が異常に上がるんだろうな。あれってなんだろ、即席?いつもは部屋デートしてるカップルも外に出てくるのか?」
「さあな」
「あ、そうだトシ。せっかくだから俺、今日サンタクロースのコスプレで行こうかなあ。なんか盛り上がりそうじゃん」
「絶対に許さない」
「即答!?」
「あんたはコスプレだとか着ぐるみだとかなしで、そのままがいちばんいい男なんだ近藤さん」
「…なんか今、俺トシにすげえこと言われた」
 俺も言ってから焦った。コスプレを阻止したいあまり、普段なら飲んでも言わねえようなことを真顔で口走っちまった。ドン引きだ。自分にドン引きだ。
だが近藤さんは違ったようで、満面の笑みでまだぼさぼさの俺の髪をくしゃりとしてもっとぼさぼさにした。
「朝からうれしいこと言ってくれるじゃん、トシ。今日の市中見廻り、お前とふたりで遅番にしてよかった。なんとなくこういうイベントの日は一緒にいてえもんな」
「相変わらずあんたはこういう行事が好きだな」
憎まれ口を叩くが、近藤さんが無理やりシフトの調整をして俺とふたりきりで市中見廻りに行くシフトを組んだのを見て見ぬふりをしたのは俺だ。
「さ、顔洗って飯食いに行こうぜ。今日、食堂のおばちゃんがブッシュドノエル作ってくれるって言ってたぞ」
「まじでか」
俺は夢の衝撃からすっかり立ち直り、軽やかな気持ちで起き上がった。その気持ちは10分後、食堂に揃った隊士たちから「局長!俺たち一同からささやかなクリスマスプレゼントです」と贈られた、上半身サンタ、下半身トナカイの着ぐるみを見るまで続いた。


前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ