小説3

□疑われた関係 全6話
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山崎の問いかけに隊士たちがきょとんとした顔をした。
「…辞めるってなんで?辞めっこないでしょう?」
ひとりが不思議そうな顔のまま答えると、ほかの隊士たちも一様にうんうんと頷く。
「実際にどんな関係か勘ぐるってのは、本当にすげえ興味があるのと、あとは野次馬ですよ。知ってどうするってもんでもないですって」
「そうですよ。あ、ただし俺は女しか興味ないですよ」
「ほんとのところの関係は、どんなに俺らが勘ぐろうが、これからもわからないままでしょうしね」
「できてようができてなかろうが、局長は局長だし副長も副長。なんにも変わらないです」
(…へえ。俺が思ってる以上にあのふたりは慕われているのかも。で、こいつらは意外にしっかりしてて、ちゃんと本質を見てる)
山崎は話が嫌な方向へ進んだ場合は口を挟むつもりでいた。もしも本当に近藤たちの部屋の天井裏に忍び込むような真似をするならもちろんそれも阻止するつもりでいた。けれど隊士たちはそれほど愚かでも幼くもなかった。
(うん、やっぱりそうだ。たまたま今夜はこの場に居合わせたけど、案外この手の話はときおり話題になってるんだろう)
少しばかりいい気分で、山崎は途中までしか読んでいなかったジャンプの続きにとりかかった。



ちょうどその頃の、近藤の部屋。
「そろそろ熱燗が飲みたくなってきたな」
常温の鬼嫁を一口飲んで、近藤が土方に顔を向けた。土方も「そうだな」と頷く。
「今年の夏は長かったな、ついこないだまで蝉が鳴いてた気がする。それがもう熱燗が恋しい季節とは、時間が経つのは早いな。近藤さんが年取るわけだ」
「あっ、なんで俺だけ老けてくみてえな言い方すんだよ。自分だけ永遠の20代?」
ふたりは笑ってまた酒を口にする。先ほどまでは一緒にテレビを見ていたのだが、近藤が毎週欠かさず見ているドラマが終わるとテレビは消され、部屋にはふたりの話声だけが響く。
「そういや今日、見廻り中におやっさんにばったり会ったぞ。栗料理がそろそろ終わりだから、早く食べに来てくれって」
「そうか。最近ばたばたしててしばらく行ってなかったからな」
「明日行こうか。トシも早番だろ?」
「ああ。でもその前に大正屋寄っていいか。明日の夕方から閉店までの間だけ、数量限定でQPプラチナプレミアムプレジデントマヨが発売されるんだ。ひとり2点までだから、できれば一緒に並んで欲しいんだけど」
「わかった、いいよ」
「やった、これで4つはゲット確実だ」
このたわいもない会話が交わされている部屋と数10メートル離れた場所で、自分達の関係が疑われ詮索され渦中の人となっていることなど、近藤と土方は知る由もない。もしも土方がすべてを見聞きしていたら胃の痛くなる思いをしただろうが、そうなればきっと近藤がしっかりと土方を支えたはずだ。
ふたりが歩んでいるのはほんの少しでもバランスを崩せば割れてしまう薄氷ではなく、どんな衝撃にも揺るがない重厚な石畳なのかもしれない。それをふたりは、もちろん知る由もない。


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