小説3

□疑われた関係 全6話
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山崎が心中で突っ込みを入れていると、誰かが「無理無理」と冷めた声を出した。
「局長と副長の部屋、屯所の最奥だぞ。俺ら平隊士にはそうやすやすと飛び越えられない結界があるだろ」
「まあ確かに、そう気軽に行ける雰囲気ではない。でも小姓番のときはずっと詰めてたし、別に行っちゃいけねえって決まりなんてないんだし」
「普通に行くんじゃないんだぞ、夜中に、ふたりがなにしてるか、こっそり現場をのぞくんだぞ」
「冷静に考えろ。局長と副長だぞ?そんなことして気づかれないと思ってんの?」
「没頭してりゃ屋根裏や軒下から息を潜めた存在には気がつかないんじゃねえの」
「没頭って、なにに没頭してんだよ」
「そりゃお前」
「無理だね」
別の男が即答した。
「なに甘く見てんだよ。あの局長と副長だぞ、気づかれないわけねえっつの。その場でばれて、よくて切腹、悪けりゃ問答無用で袈裟がけだな」
「…まあ、確かにあのふたりや沖田隊長は、頭の後ろにも間違いなく目がある」
「だろ。現場おさえるなんて、天地がひっくり返っても無理だって」
「うーん。じゃ、やっぱりあのふたりが怪しいって思っても、思うだけで証拠はなにもないってことかあ」
「なあ。結局ふたりはできてるってこと?」
いつの間にか話が「ふたりはできている」という前提に変わっていたことに隊士たちは気づき、またしても沈黙。
「あれ?山崎さん、いつからいたんですか」
隊士のひとりがようやく山崎に気がつき驚いた声を上げた。山崎に視線が集中し、「わ、びっくりした」「全然気がつかなかった」など、監察方筆頭に対してかなり礼に欠く発言を(しかも失言だとも気づかず)左右からサラウンドで浴びせた。しかしそんな扱いに慣れている山崎は特に気にする様子もなく、「結構前からいたけど」と普通に返す。
「じゃあ山崎さん聞いてましたよね、局長と副長の話。どう思います?山崎さんは俺らよりあの人たちの部屋に行くことも多いし、あやしい場面に遭遇したこととかないですか」
「ないよ(俺が危険な気配を察してそれ以上近づかないから)」
「全然?一度も?」
「うん(ま、膝枕くらいまでならこっそりのぞいたことあるけど)」
「そうかあ、山崎さんですら証拠をつかんだことないってことは、真実を知ることは無理か」
「じゃあ結局、こうやってさんざん推測するだけで、できてるかできてないかを知るすべは今後もないってことかあ。あんないつも一緒にいるのに、これぞという証拠はないなんてなあ。そんだけ用心深いってことか?」
「ところでさ、お前たちは仮にふたりができてるとしたら、どうするわけ?」
「え?」
「ふたりを軽蔑して、真選組を辞める?」
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