小説3

□疑われた関係 全6話
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山崎は一言も口を出さずに、部屋の隅で隊士たちのやりとりを聞いていた。
(今夜はたまたま俺がここに居合わせただけで、案外この手の話は大なり小なり隊士たちの間で語られているのかもしれない)
そう考えたとき、あのふたりはなんと危うい砂の城の中で暮らしているのかと、山崎はほんの少し寒気を覚えた。
(こういう事態をふたりが想定していないはずがない。わかったうえで、あらゆるリスクを背負ってもなお離れられない、離れないってことだ)
それではあのふたりは、この場の話がどう進み、こいつらがどんな結論を出すのか、そこまで見えているのだろうか。否、それはない、山崎はそう確信している。近藤の真意はわかりかねるが、少なくとも土方はその性格上、ふたりの関係が公になり近藤の立場が危うくなることをなによりも恐れているはずだ。だからこそ、細心の注意を払って、人前では一切の隙を見せまいと気を張っている。とはいえときおり周囲が唖然とするほど盲目的な発言を平然と放つこともあるが(たとえば真選組のマスコットは近藤さん、とか)、そこに艶っぽい空気を感じる隊士などひとりもいない。つまりたとえ話題に上ることがあっても、疑われる証拠がないのだから断固否定できると思っているのかもしれない。
(よく考えれば俺もこの件を今まで突っ込んで考えたこと、なかったな)
上司のプライベートをそこまで詮索したくなかったし、ふたりができていようが山崎の心情にも業務にもなんら影響はなかったからだ。
隊士たちの話は続く。
「お似合いねえ…確かにお似合いではある。男同士だが、ふたりで並んでるとさまになるよな」
「そうかあ?俺は局長みたいなでかい人のとなりに、華奢で小柄な女の人がちょこんといるほうがいい気がするけどなあ」
「それよか実際問題、あのふたりができてたとしたら、当然やることやってるわけだろ。自分の上司ふたりができててやってるって、それってあり?」
「できてるのにやってねえほうがよほど問題なんじゃねえの」
「え、なに、やってるって、えーと、どっちかが突っ込んでどっちかが突っ込ま」
「もっとオブラートに包めよお前!デリカシーねえな!」
隊士たちの会話はいよいよ生々しい内容になっていく。
「あ、でも俺ちょっと今、どきっとしちゃった想像して。きっと副長が女役だろ。あの鬼の副長が喘ぐ顔って、すげえ色っぽいんじゃねえの」
「ヤニ中のマヨラーだけど美人顔だしな。ああいうつんとすました顔が乱れるって、そそられるよなあ」
「おいおいおい、ちょっとなにお前ら。もしかしてそっちの趣味あんの?」
「ねえよ!ねえけど、ねえ人間ですら副長は部分的にエロいってこと」
「それを言うなら局長だってごくたまに大人の男の色気を見せるじゃん」
「あー、それは俺もときどき思う。あの人ゴリラとかケツ毛とか散々言ってるし姐さんのストーカーしてるから変態扱いされがちだけど、真面目な顔して黙ってるときはかっこいいもんなあ」
あれあれ、話が変な方向に進み始めたぞ。山崎は少しおもしろくなってきた。
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