小説3

□疑われた関係 全6話
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「そもそも四六時中一緒にいるからできてるっていう話の流れそのものがおかしいっつの。あの人たちが一緒にいるのって真選組結成前からだろ。もう相手が隣にいるのが当たり前になってんだよ」
「だよな。ありゃ結婚したら奥さんが局長や副長に嫉妬するぜ、自分よりも一緒にいる時間が長いって」
「いやだからさ、いくら付き合いが長くて同じ仕事してて同じ屯所に住んでるからって、プライベートの時間まで一緒にいる必要あるか?あの人ら、ほっといたら24時間一緒にいるぜ。さすがに不自然じゃね?」
「そうかな、もう当たり前すぎてなんの違和感もない」
「いや、言われてみれば確かになんでそこまでいつも一緒なんだ、もしかしたらなんかあるのかって、そんな気がしないでもないような気がしてきたようなしないような」
「確かになあ。義兄弟の盃交わした仲だとは聞いたことねえけど、昔って義兄弟とか主従関係の契りって意味でやったりしたんだろ、それならあのふたりが念友だって決しておかしくねえよ」
「わああああ待て待て!やっぱり生々しい話はちょっと待って!局長と副長がって、ちょっとタイム!」
談話室がひときわ騒がしくなり、ふたりができてるできてない、やってるやってないとほとんど恐慌状態になった。山崎は息をひそめて(ひそめなくても存在自体がすでに空気になっているが)話がどこへ向かうか神経を集中させている。
「考えてみろよ、副長ってマヨラーのヘビースモーカーですぐ切れる最低最悪のとこあるけど、黙って立ってりゃいい男じゃん、実際もてるじゃん。バレンタインの日の市中見廻り、俺が持たされた紙袋、屯所に戻って来たときにはチョコがてんこ盛りだぜ? なんでそういう人がよりよってゴリラと言われることすらある局長の相手するわけ?おかしいだろそれ」
「それを言うなら局長だって黙ってりゃいかにも局長って威厳があるし、剣も強いしいい男じゃん。なにも男相手にすることねえだろ」
「じゃあなんで見合い断ってばっかりいるんだよ」
「副長だって、もてちゃいるけど浮いた噂はなんにもねえぞ。ましてや吉原でばったり遭遇なんてこともねえし」
近藤が幕府の重臣からの見合いでも相手に会うことすらせずに断ること(それは若い隊士たちから見ても、政治的にあまりよろしいことは思えなかった)、土方があれほどもてるにも関わらず特定の女どころか遊び相手すらいないことを、隊士たちは今、改めて気づいた。あれほど騒々しかった談話室に、奇妙な沈黙が広がる。その沈黙は先ほどまでは優勢だった「局長と副長ができているなどありえない」の声がやや小さくなったことを意味した。
その沈黙を破ったのは「俺は信じない」派の隊士だった。
「…いや、俺はやっぱり信じられない。そもそもあのふたりがどれほど一緒にいたって、なんつうか意味ありげな空気がこれっぽっちも流れてねえもん。無理、そういう関係のふたり、とてもじゃねえけど考えられねえ」
「だよなあ。局長と副長が人に言えない関係だなんて想像もできねえよ」
「だからそこをちゃんと想像してみろよ。案外お似合いだろ?たまたまどっちも男だけど、これ以上お似合いのカップルないって」
「…」
また談話室に沈黙が広がった。
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