小説3

□おしゃれ局長 全2話
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近藤はいつもより腰に軽さを感じることがもっとも気になっているらしく、刀の位置をがちゃがちゃと調整している。
「それにさあ、この紐もはっきり言って意味ねえよな。この胸から肩にぶら下がってるこれ。おしゃれ紐ってことだよね。刀だって柄頭になんでこんな紐付いてんの、ぶっといリリアン?やっぱりおしゃれ重視なんだな正装ってのは、無駄が多い。こことかもほら、そう思わね?ただこれ1本だからまだいいけど、2本だったらジャージ柄だよね?」
「…」
近藤が自分のスラックスを指したので、土方はそれが普段の隊服ではなく、上着と同じ銀色のストライプが脇に走っていることに気づいた。そのせいでいつもよりさらに足が長く見えた。
「これに正帽まであるんだから参るよ、あれ頭の部分が白かったら完全に船長だろ。まあ帽子は屋内ではかぶらねえからその点はまだいいか。白手袋ってのも汚れが気になるよな」
「局長、車の用意ができました」
「おう、いま行く」
廊下から隊士に声をかけられ、近藤は大きな声で返事をする。
「ま、ほんの2時間の辛抱だ。やっぱり俺はいつもの動きやすい隊服のほうがいいよ、なんだかんだ言ってあれは俺たちの仕事にうまい具合に合ってるんだな。似たようなもんをこうやって着てみるとよくわかるよ。じゃあトシ、帰ってきたら報告するか…」
「ああ」
土方はようやく声を出した。近藤のかっこよさに見とれてずっと呆けてたのだ。
近藤自身は着飾った正装が気に入らないようだが、土方からすれば、はっきり言って似合いすぎていた。携帯を取り出して最高画質で撮影し、等身大サイズに印刷したいと思うほど正装姿の近藤はりりしく勇ましく絵になった。手にふわりと持っている手套すら、近藤を際立たせるアイテムだった。
(かっこよすぎる。なんだこのかっこよさは。嘘じゃなくて輝いてる、まじで。こんなとんでもねえかっこよさを近藤さんまだ隠し持ってたのか!やられたぜ!)
土方は見とれすぎて思考がほとんど幼稚化していたが、もちろん本人は気づくはずもない。近藤が言葉を止めてじっと自分を見つめているので、土方は巷の女たちがとろけるような甘い笑みを浮かべて言った。
「せっかくだから楽しんで来いよ、近藤さん」
「トシ、鼻血出てる」
「ん?」
近藤のかっこよさにまいってのぼせちまったのかと、土方はなぜか照れ笑いをした(近藤は正直軽く引いた)。
「気にすんな、ただの鼻血だ。車待ってるぞ」
「…うん。じゃ、行ってくる。止血しろよ」
土方のことが気になりつつも部屋を出て行こうとした近藤の背中に、やはり土方はどうしてもこらえきれず叫んだ。
「近藤さん!ちょっと写真撮らせて!」


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