小説2

□続・半端じゃない信頼 全2話
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近藤は山崎に「奉行所に電話して」と言い、初めて土方のところへ足を進めた。
「トシ」
「近藤さん?」
土方が驚いて振り向く。
「どうした、こんなとこで」
「ザキ誘ってラーメン食いに行ってた。屯所に帰るとこでお前見つけた」
近藤が呑気な声を出す。土方は足の爪先で浪士たちを突いて気を失っているか確認しながら、これまた緊張感のない声で文句を言う。
「なんだよ、見てたなら手ぇ貸してくれたっていいのに。俺が危ない目に遭ってても近藤さんは高みの見物かよ」
電話を済ませた山崎が、浪士たちに手早く手錠をかけていく。
「だってトシ、お前が敵前でぺらぺらおしゃべりするような奴らに手こずるわけねえもの。刀さえ抜かなかったじゃねえか、しかも全員生かして捕縛する余裕まである。俺が割り込んだらお前かえって怒ったろ?」
おかしそうに近藤が言うと、土方も笑って「違いねえ」と言う。
土方の肩についた埃を払ってやっている近藤を横目で見ながら、山崎は心の中で大きな息を吐く。
(まったくこの人たち、阿吽にもほどがあるでしょ。なんなの一体、どうするとそこまで互いを信じきれるようになるわけ…)
「ごめんねトシ、探したんだけど見当たらなかったから、ラーメン食いに行くのザキ誘っちゃった」
近藤が詫びると、土方の視線が初めて山崎に向けられ、その目に一瞬いらつきと殺気が宿った。こういうのを逆恨みというのだと、山崎は泣きたくなる。
(ラーメンくらいで副長、俺に殺意!?局長もなんだよ「誘っちゃった」って!どこまで俺の尊厳無視!?)
しかし幸い土方の怒りはそれ以上大きくならず、その目は再び近藤に向けられる。
「うまい大吟醸があるんだ。戻って飲まねえ?」
「お、いいなそれ。じゃあ俺の部屋で飲も、早く戻ろう」
山崎も、足元に転がる浪士たちも完全に無視し、ふたりは勝手に盛り上がっている。
「山崎、奉行所にちゃんと引き渡せよ」
「じゃあ悪りぃけど後片づけよろしく頼むな!」
ふたりは山崎に声をかけ、屯所への道を進み出した。と、近藤が立ち止まり、おもむろに振り返った。
「ザキ、お前は仕事が早くて優秀な監察方だけど、直属の上司の腕をもちっと信用しろ。こんなのトシにとっちゃただの喧嘩だ。相手が飛び道具持ってるならともかく、今夜みたいな間抜けな奴らだったら加勢どころかトシの素手だけでこと足りる。でも助けるべきときはちゃんと助けるんだぞ、その辺の見極めをしっかりとな」
「近藤さん、見極めなんてそんな簡単にできるわけねえだろ」
「いんや、俺はわかるぞ。トシに助けが必要なときとそうでないとき」
「そりゃあんただからだろ…」
ふたりは話しながら去っていく。その後ろ姿をしばらく見つめ、やがて山崎は苦笑した。
(まったくうちの局長と副長は…どんだけ夫婦)
空を見上げる。薄暗い路地のせいか、珍しく星がよく見えた。


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