小説3

□俺は今ムラムラしている 全5話
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無言で近藤さんの部屋に入り込む。布団が規則正しく上下している、どうやらもうすやすやとお眠りらしい。起こしてやる。起こして襲ってやる。やることやった後で近藤さんをなじってやる、俺に愛想尽かしやがって!
俺は強気だった。普段の思考回路ならば到底考えられないが、何週間にもわたる抑圧と酒の勢いもあり、愛想尽かされた悲しみよりも憤りのほうが完全に勝っていた。
鼻つまんで起こしてやろうか、耳元で大声出してやろうか、俺はそんなことを考えながらしゃがんで近藤さんの顔をのぞきこんだ。すると眠っているとばかり思っていた近藤さんが目を開けて俺を見ている。
「え!」
心臓が飛び出るかと思うくらい驚いた。あまりに驚いてバランスを崩し、思わず尻もちをつきそうになる。すると近藤さんの腕が布団の中からにょきりと伸び、俺の腕を強い力で引っ張った。
「わっ!」
予想していなかったリアクションに体が反応できず思いきり近藤さんの腕の中に転がり込むと、近藤さんはすかさず俺をぎゅっと抱きしめた。それから俺がなにか言おうとする前に、かなり強引に俺も布団の中に引き込み、それからもう一度ぎゅうと抱きしめた。
近藤さんの体温、近藤さんの鼓動、近藤さんのにおい、近藤さんのぶ厚い胸板。ずっと焦がれていたものが一気に流れ込んできて、俺の頭はほとんど真っ白になった。
「飲んでなんかねえでもっと早くに来ればいいのに」
耳元でささやかれた。やさしい声だ。低くて甘い。顎鬚が頬に触れるだけで恍惚となったが、自分が怒っていたことを思い出す。
「だってあんたが俺を全然構わねえから、もう俺に興味がねえのかと、そりゃあんまりにもひどいって」
「は?なんでそんな話になってんの?」
「だってそうじゃねえか、あんたここ何週間も全然俺を誘って来ねえし」
「それはトシが忙しそうだったり機嫌悪そうだったりしたから遠慮してたんだろ?やっていいなら毎日やりてえに決まってんじゃん」
「下品な言い方すんなよっ」
恥ずかしさのあまり思わず声を荒げたが、基本ここまで俺たちはひそひそ声で言い合ってる。
「じゃあなんで今だって俺がひとりで飲んでたの知ってるくせに部屋に来なかったんだよ」
「トシが来るの待ってた。しびれ切らしてトシから来ればいいと思ってた。いつもムラムラしてんの俺ばっかだと思ってたから、たまにはトシが夜這いにくればいいって」
近藤さんはそう言ってくすりと笑い、俺のデコにチュッとキスした。
「なーんだトシってばムラムラしてたのかって気づいたらここ数週間の疑問が全部解けてすげえ納得。欲求不満からイラついてたんだろ?」
「そっ…そういうあからさまな言い方すんな!」
「まあまあそう怒んないで。俺が悪かった、ごめんね。ものすごく素直に謙虚に謝るから。今夜はめちゃくちゃ奉仕させていただきますから」
「なんでいちいちそう言い方がエロいんだあんたは…それにいつ気づいたんだよ、俺がその、その」
「ムラムラしてるってことに?」
「う」
恥ずかしさのあまり喉の奥で詰まったような返事になったが近藤さんは気にしてないようだ。
「今日の捕物。俺が呼んですげえ勢いで振り向いたとき、超色っぽい目えしてた。ありえねえ量のフェロモン撒き散らしてたぞ、あれでそうか、そうだったのか!って」
「わかった、もうわかったから」
聞くに堪えず近藤さんの胸に顔を埋める。
限りなく恥ずかしいが、とりあえずもうイライラしたりムカムカしたりモヤモヤする必要はないらしい。だってすでに近藤さんの片手は俺の帯にかかってる。
苦行だった日々からようやく解放され、俺は頭がぼーっとするほど幸せな気持ちに満たされた。
その後のことは、とても俺の口からは言えない。





リクエストくださった(/さま、どうもありがとうございました!
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