小説3

□俺は今ムラムラしている 全5話
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ひとり早く戻ってきた俺に不思議がる隊士たちを無視して飯を食い(自分をいたわるためマヨはいつもより2割増しにした)、一服してから風呂に入り、鬼嫁を湯呑で喉に流し込んでから報告書も書かずに布団に入った。酒の勢いでさっさと寝ちまおう。かわいさ余って憎さ百倍で、近藤さんの顔見るのも声聞くのもやだ。
しかし頭に血がのぼっているせいか、酒は確実に手足の先まで沁み渡っているのに、一向に眠気が訪れない。焦るとますます眠気は遠ざかっていく。俺はさらに酒の力を借りようと、布団から手を伸ばして鬼嫁をもう1杯湯呑に注ぐ。
それにしてもおかしな話だとうつ伏せ姿勢で飲みながら俺は考える。このムラムラを解消できるのは近藤さんしかいねえのに、その近藤さんの顔も見たくねえって変じゃねえの。そもそもなんで俺は近藤さんに怒ってんだ。それはあの人があまりに鈍感だからだ。究極の空気読めない人だからだ。察しろよバカ。大体近藤さんは何週間もご無沙汰で平気なのかよ、いやそれは今までも別に珍しいことじゃねえか。そうじゃねえ、よくもムラムラしてる俺を放置できるな!こんなに発散しまくってるやりてえオーラに気づかねえなんて、俺に興味がねえんじゃねえの?
え?まじで?
自分で考えたことにはっとして酒を飲む手が止まった。
俺のムラムラに気づかねえってのはつまり俺を見てねえから?俺に興味がないからってつまり、俺のことあんまり好きじゃねえってこと?
なにそれ!なんだよそれ!あまりに理不尽だろそれ!俺がなにしたってんだよ!
でもさっきだって俺に先帰れって言った。あれ、俺が鬱陶しかったってことか?そういやこないだ久しぶりにふたりでゆっくりできそうな夜だってキャバクラ行きやがったし。
ええええええ!俺、近藤さんに愛想尽かされてんの!?
布団から起き上がった。脳内でどんどん発展していった「近藤さん俺のこともう好きじゃないかも」論はいつの間にか推測から揺らぎようのない事実に転換され、俺は激しい悲しみに打ちのめされた。
ムラムラしたことで近藤さんの心変わりに気づくなんて、なんてむごい話なんだ。俺は絶望してさらに酒をあおる。気がつけば隣の部屋からごそごそ物音が聞こえている、近藤さんも帰って来たんだ。おそらく風呂だろう、一度部屋から出て行く足音、しばらくして再び戻って来る足音。押し入れの襖を開ける音、あれは布団を敷いてるのか。俺の部屋をちらりとのぞくことすらしねえ、本当に俺に愛想が尽きたのか。
やがて電気を消す音がして、それから近藤さんの部屋はしんと静まった。もうなんの物音もしない。寝たよ。寝やがったよ今夜も。俺はもはや空気か畜生!
憤然として立ち上がった。
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