小説3

□俺は今ムラムラしている 全5話
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ただやりてえだけならこんなに困らない。遊郭行ってもいいし、いや、遊郭まで行かなくたってちょっと夜にひとりで歩けば声をかけてくる女もいる。でもそれじゃ全然だめだ、俺は近藤さん限定でムラムラしてるんだから。
もはやこれ以上の忍耐は隊務に支障をきたす(いや一般隊士たちからすりゃすでに支障はあったのかもしれない)、俺はそう判断した。もう四の五の言ってられねえ。近藤さんからからかわれようが笑われようがかまうもんか。夜這いだ。今夜決行だ。
ところが俺はどこまでも運に見放されていた。
本来ならばその夜はふたりともなんの予定も入っておらず、しかも近藤さんが夕方になって「トシ、今夜久しぶりに飲みにいかね?」と誘ってくれて(それを聞いたとき内心あまりのうれしさに小躍りした!)、さらに明日の俺は非番で、もうこれ以上ないというほどムラムラを解消できる条件がそろっていたというのに、なんと攘夷浪士が天人にちょっかい出してこぜりあいをしているという通報が入った。なんで!こんな夜に!死にさらせ浪士!
天人のほうに政府の要人がいたため俺だけでなく近藤さんも出動し、一般人まで巻き込みそれなりの規模になっていた乱闘を手早く処理する。そのさなか、俺は浪士どもを目にするとイライラが頂点に達した。こいつらのせいで俺の下半身がとんでもねえ苦行を強いられてると思うと浪士をまじ斬りしそうになり、背後から「トシだめだ、生かして捕えろ」と近藤さんに叫ばれた。それがなおさら俺のフラストレーションに拍車をかける。
「ウラアァァァァァてめえらさっさとお縄にかかりやがれゴルァ!!」
「ちょちょちょ、ちょっとトシ危ない!峰打ちでも危ない!」
「うおっ、副長やばいっす!天人が怯えてます!」
「なんだあいつ、土方か!?なんか暴走!?」
近藤さんばかりか若い隊士、しまいには捕縛した浪士までもがどん引きしてるが、俺にだって、俺にだってなあ!暴れずにはいられねえ事情ってもんがあるんだよ!
「トシ」
「なに!」
俺は近藤さんへのムラムラとそのムラムラを解消できない幾多の障害に果てしなくいらついた状態で、鼻息も荒く返事をした。
「浪士の引き渡し俺のほうでやっとくから、先に屯所に戻ってろよ」
「なんで!?言ってる意味わかんねえし!」
「お前がそこまで機嫌悪りぃと隊士がびくつきすぎてかえって隊務に支障が出る。もう引き渡しだけなんだから、先に帰れ。な?」
近藤さん、ついには俺を邪魔者扱いか。あんたのせいで俺はこんな思いしてるのに。悔しくて恥ずかしくて情けなくて気持ちが高ぶってるせいもあり、なんかちょっと目頭が熱くなった。近藤さんの驚いた顔を見たくなくてぷいとそっぽを向き、「わかったそうする」と短く返す。呼びかけられているのが聞こえたけど無視して、俺は本当に先に屯所に帰ってしまった。
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