小説3

□好きだ 全7話
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「やっぱりここにいた」
校舎の屋上、物置と壁で三方から死角になる場所が近藤のお気に入りだ。夏はひんやりと涼しく、冬は吹き荒ぶ風を避けられる。なによりも、誰からも見られることがないおこもり感がいい。昼食を食べたり昼寝をしたりときには授業をさぼったり、近藤の高校生活にこの屋上は欠かせなかった。
そこでひとり陰鬱に座りこんでいるところにやってきたのが土方だ。朝、一緒に登校したところまではいつもと同じだったのに、その後近藤の機嫌が悪くなり土方と口もきかなくなった。そして昼休みにはついに姿をくらませた。
近藤の機嫌が悪くなったおおよその原因はわかっているし、姿の見えなくなった近藤がどこにいるかもわかっていたから土方は慌てない。予想通りこうして近藤はいつもの指定席にいる。
土方の来訪にも近藤はほんの少しちらりと目線を動かしただけで、すぐになにがあるわけでもない宙へ向けられる。今回は重傷かなと土方は小さく息を吐き、近藤の隣に座った。
「俺のこと怒ってんだろ。今朝のことで」
「…」
「なにをむくれてんだよ。あんたがあの女に惚れてたのなんて2年も前の話だろ」
「惚れてなんてねえ」
「騒いでたじゃねえか、かわいい好みだって。それともなんだよ、まさかあの女にOKの返事でもして欲しかったのか」
「…」
近藤は不機嫌極まりない顔を上げて土方を見て、結局そのままなにを言うわけでもなく押し黙っている。
ふたつ隣のクラスの女子が今朝、スニーカーから上履きへ履き替えているとき土方に告白してきた。隣に近藤もいたというのに堂々としたもので、今は私のこと知らないだろうけれどデートしながらいろいろ知っていって欲しいと言う。土方はもちろん断ったが、相手は意外にも食い下がった。
「どうして?誰か好きな人いるの?」
「関係ねえだろ」
「じゃあ誰か付き合ってる人がいるのかいないのかだけでも教えて、じゃないとあきらめつかないから」
「そんなのなんで教えなきゃいけねえんだ」
「じゃ、好きな人も付き合ってる人もいないって思っていいの?それなら私、あきらめないよ?」
「しつけえな、何度言われようが無理なもんは無理だ」
そう邪険な態度を取って(土方にとってはいつもと同じブレのない態度ではあったが)、先に教室へ行こうとしていた近藤の後を急いで追いかけたのだった。
「なにを怒ってんのか言ってくれねえとわかんねえだろ」
むっつりと押し黙ったままの近藤に少しいらいらして土方が固い声を出すと、近藤がにらんできた。それがあまりに攻撃的な視線だったので、土方は内心少々ひるむ。
「なんだよ一体」
「お前は、俺とのことをひたすら隠してえんだな」
「は?」
「好きな人を聞かれても答えねえ、付き合ってる人がいるか聞かれても答えねえ。いるかいないかすら答えねえ。あれじゃあの子が期待するのも無理ねえよ」
「なんでそんなことろくに知らねえ奴にいちいち教えてやんなきゃいけねえんだよ」
「誰に教えるかじゃなくて、お前が俺とのことをひたすら隠してるってのが気分悪りぃんだよ!」
近藤が語気を荒げた。
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