小説3

□近藤さんとクリスマス 全2話
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「えー、では午前中はかぶき町の歩行者天国で犯罪防止の啓もう活動を実施、午後は中央通りに移動して同じく啓もう活動および歳末空き巣対策強化週間のPR、さらに夕方には再びかぶき町に戻り午前中と同じ活動を行う。その際、通行人の目に留まりやすくするための対策、措置として、局長がイレギュラーな隊服を着用する。これは近藤さん自らが申し出てくれたことだ」
これまでの話をまとめて伝え、ここで一呼吸置く。近藤さんが大将の立場でありながら率先して真冬の町で真選組をアピールしてくれることのありがたさが、幹部全員にしっかり浸透するように。
俺の話を聞いていた幹部のひとりが隣の奴になにか言っている。
「イレギュラーな隊服ってさ、あのサンタとトナカイのコスプレだろ?上半身がサンタで下半身がトナカイの、あれ」
「そう。あのまこっちゃんみてえな、超不気味なやつ。下半身は足4本のな。で、上半身がサンタのな。あれだよあれ。局長がこれならひとり二役できるって大喜びで買ってきたやつ」
「そこ、なにこそこそ喋ってる」
「なんでもありません」
俺のひとにらみで黙り込んだものの、今度は反対側に座ってた奴がぼそぼそ言ってる。こういうときの俺は地獄耳だ、怖いほどよく聞こえる。
「なんで副長ってさ、局長がらみになると間違ったフィルターかかんの?犯罪防止云々とか言ってるけど、これって局長がコスプレしたいから理由を後付けしたんだよね?局長、サンタの格好で子どもにお菓子配りたいってすげえしつこく言ってたよな?」
「丸腰のサンタ局長を警護する俺たちの身にもなってみろっつの。まじで寒いよ?局長はいいよ、あんなもこもこのコスプレ、北風も通さねえだろうし。足なんか4本付いてるし。でも俺ら、サンタの護衛で凍死するかもよ?だって天気予報、雪だよ?」
「天気がどうした。てめえら雪だと市中見廻りも休むのか」
「…そういうことは言ってないすけど、すみません」
その隊士もなにか言いたげな顔をしたものの、結局押し黙る。俺は満足してひとり頷き、隣の近藤さんを見た。いつもならどっかり胡坐をかいているのだが、気合い十分な近藤さんはすでにイレギュラーな隊服を着込んでいるから座ることはままならず、下半身はしっかり4本足で立ち、上半身は堂々と腕組みしている。なんて勇ましくりりしいんだろう。俺は幹部たちの目の前であまりうっとり見とれたりしないよう、自分を律するのに必死だ。さっきから総悟が痛ましそうな表情で俺を見るのが気に入らねえが、どうせ近藤さんの隣にいるのが俺だってことに相も変わらず嫉妬してるんだろう、いつまでたってもあいつはガキなんだから。
近藤さんと目が合った。近藤さんが歯を見せずににこりと笑う。サンタクロースの衣装がこんなに似合う人がこの世にいるだろうか。最高だ近藤さん、自慢の局長だ!
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