小説3

□疑われた関係 全6話
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その夜の談話室は、ほろ酔いの隊士たちが多かった。そして、たまたまそこに居合わせた山崎を除き、真選組に入隊して比較的日の浅い者が多かった。
山崎は土方が宴席に呼ばれて留守なのを知っていたので、談話室の隅で堂々とジャンプを読みふけっていた。そのせいでただでさえ地味な存在感はますます空気のごとく薄くなった。その結果、まがりなりにも監察方の筆頭という上司に当たる存在が部屋にいるにも関わらず、若い隊士たちのおしゃべりはおのずと伸び伸びとしたものになった。
「…でさ、その店で見たぜ俺、原田隊長が未亡人風の女と、あのハゲ頭がくっ付くぞってなくらい顔寄せ合って話してるとこ。ありゃ絶対なんかあるね、あのふたりの間には。そんな雰囲気が漂いまくってたもん」
「なんだよその未亡人風って。それお前のイメージだろ、なに勝手に亭主殺してんだ」
「いやいやほんとにそんな感じの女なんだって。ちょっと憂い顔でさ、陰がある美人っつの?原田隊長よりちょっと年上と見たね」
「まあ幹部はみんな独身だし、それぞれに色恋の話があったっておかしくねえだろ、むしろないほうが異常。ないほうがいろいろ問題ある」
「だよな。なんつってもうちは局長からしてストーカーだもんなあ。あの店でドンペリーニョ、何本空けてきたんだか」
ここで噂話のターゲットは原田から近藤へと移り、隊士たちはひとしきり近藤のお妙に対する報われない悲恋についての話で盛り上がった。
局長はあの店で総額いくら使ったんだ、本庁のえらい人からの見合いは会いもしないで断るらしい、姐さんとゴールインできるってまさか信じてるんだろうか、などなど、好き勝手な意見が飛び交っている。
そのとき、隊士のひとりが言った。
「あの姐さんてさ、卵焼き作ろうとしてダークマター生み出すんだろ?そんな人より局長には副長のほうがよっぽど似合ってると思うけど」
「あー、それは言えてる」
一同がうんうんと頷く。しかし別のひとりが言う。
「そりゃあのふたりは一緒にいるのが当たり前みたいに思えるけど、でも副長そもそも男じゃん。現実問題として夫婦になれねえじゃん。限りなく夫婦っぽいけど、一生『夫婦っぽい』以上にはなりえねえだろ」
「まあなあ。副長が女だったら話は違ってくるけど。あ、でもそうしたらそもそも副長じゃねえか」
「つーかさ、あのふたりってなんか怪しくね」
 ひとりの発言に談話室が静まり返った。
山崎はジャンプを読みながら(そっちに話行くなよ)と心の中で念じる。
「怪しいって、なんだよ」
「だから、夫婦っぽいんじゃなくて、実際夫婦なんじゃないの。もうちょっと甘い言葉で言うと、恋人?」
「ちょ、なに言ってんだお前!」
「まさかお前、局長と副長ができてると思ってんの?」
「ないないない、ありえない。お前おかしい、なんでそういう発想できるわけ?」
「いやいやちょっと待て、言われてみればあのふたりは確かに怪しいかもしれない」
「どこがだよ、どっちもガチに男だぞ!ホモの気配のかけらもねえじゃん!」
にわかに談話室が騒然となり、近藤と土方の関係について隊士たちが激しく議論を始めた。山崎はジャンプで顔を隠したまま嘆息する。
(やれやれ、面倒なことになった)
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