小説3

□俺はお前の過去を変えられないから 全2話
1ページ/2ページ

向かい合うふたりの表情は硬い。
近藤は腕を組み視線をやや落として土方の報告を聞いている。土方は病院で受け取った今後の治療スケジュールが記載されている用紙を見ながら、感情を殺した声で報告を続けた。
「手術がうまくいったんで、これ以降の治療スケジュールは当初の予定通り進められそうだという話だった。短期間の入院を数回かすることになるらしい。本人がいちばん気にしている今後のことなんだが」
「休職扱いだ。幕府の基準に沿って基本給は出す。個室のほうが体の負担にならねえってなら改装でもなんでもして用意しろ、多少狭くなるのは我慢してもらうしかねえが。この際、西側の離れを改修してもいい」
話を半ば遮るように言った近藤に対して土方は強張った表情で頷いてから、再び口を開く。
「ただ、この予定によれば治療は今後短くて3か月、長くて半年かかるらしい。その間体力筋力の低下は否めねえから、隊務に戻るにはさらに時間がかかる。しかも任務による負傷じゃなくて病気だから、休職扱いで保護してやれる期間じゃ足りねえ」
「その場合は一度退職の形を取って再雇用しろ。本人が希望する限りかならず」
有無を言わさぬ口調だった。土方は近藤のきつい視線に、ついに頷くことすらできなくなった。しかし追い打ちをかけるように近藤は言う。
「手術がうまくいったからよかったものの、2年前からちゃんと検査を受けてりゃここまで深刻なことになる前に処置できた。医者からもそう言われたよな。半年に一度の健康診断は全隊士の義務だってのに、あいつは丸2年、捕物やら張り込みやら取り調べやらが重なって受けてなかった。隊士の健康診断の管理はお前の仕事だった」
土方はなにも返せない。言われていることは事実だった。土方はこの隊士が立て続けに健康診断を受ける機会を失っていたことをうっかり見落としていたのだ。本人から報告がなかった、は言い訳にすぎない。
「衛生班から全隊士の健康管理を担当する専属をひとり用意してお前は外れろ。こんなことは最初で最後にしてくれ」
「近藤さん!」
非情な通告に、思わず土方の声が上ずった。土方の役割をひとつ奪われたのだ、それも職務をしっかりこなしていなかったからという責めを負って。
「ちょっと待ってくれ、確かに今回のことは俺にも非があることは認める、でも今後同じようなミスはしねえって約束するし、あの隊士の今後の面倒もしっかり見る、今まで以上に気をつけるから」
「軽々しく言うな。命はひとりひとつだ」
近藤がぴしりと言い、土方は再びなにも言えなくなった。
「隊士の義務である健康診断を怠ったあいつにも非はもちろんある。だがちょっと注意して記録を見れば、ここ2年奴がなんのチェックも受けてなかったことはすぐにわかった。その記録はお前の手元にあり、お前が管理するものだった。トシ、わかるか。お前はこの件で自分の職務を全うできなかったんだ。ほかの担当を立てることに反対する資格はねえ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ