小説2

□続・半端じゃない信頼 全2話
1ページ/2ページ

急にラーメン食いたくなったんだけど非番のトシは出かけてるのか見当たらない、総悟は声をかけるのが忍びないほど気持ちよさそうに居眠りしてる、だからザキ付き合っておごってやるから。
近藤にそう言われて山崎が夕食後のラーメンというヘビーな夜食に付き合わされ、腹ごなしにと歩いて屯所まで戻っているときのことだ。
「ん?なにやってんでしょう、あれ」
山崎が声を出す。
前方に数名が固まっている。手前のビルの壁の死角になり見えにくいが、どうやらひとりの男を複数名が囲んでもめているようだ。なにやら穏やかな様子ではない。
「喧嘩ですかね、ちょうど街灯がないとこでよく見えないな…止めますか?」
近藤に向かって小声で尋ねると、前方を凝視していた近藤が呟いた。
「あれ、トシじゃん」
「えっ」
山崎は驚き、改めて男たちを見る。言われてみれば、いかつい男たちに囲まれてちらちらと見えているくわえ煙草の横顔は、よく知る土方にほかならない。
「ほんとだ、副長だ…囲んでるの、攘夷浪士でしょうか。まずいですね、屯所に応援頼みますか」
胸元から携帯を取り出した山崎に、近藤が手を上げて「いや、ちょっと待て」と止める。その目は前方を見つめたままなので、山崎もおのずと近藤から土方へと視線を移した。
風向きが変わり、男たちの声が流れて来る。
「…あの仰々しい洋装姿じゃなくてもごまかされねえぞ、てめえ土方だろう」
「お前のせいでどれだけの同志が苦汁をなめたと思う。ここで俺たちに会ったのが運のつきだな」
「刀抜こうなんて思うなよ。まあ抜こうとしたところで、これだけ俺たちにぴたりと囲まれていては抜きたくても抜けないだろうが」
「さあて、どうやってお前を殺してやろうか。お前の首は屯所に投げ込んでやろうか、さぞや近藤が驚くだろうな」
物騒な言葉に山崎はぎょっとする。早く加勢しないとと気持ちがはやるが、どういうわけか近藤はその場から動こうとしない。痺れを切らした山崎が「局長」と促した。すると近藤は口元に笑みまで浮かべ、「いいから待て」と言う。
「俺たちの出る幕なんてねえよ、まあ見てな。あいつらトシを前にしてぺらぺらしゃべりすぎだ」
「え?」
そのとき、初めて土方の声が聞こえてきた。
「誰が刀なんて抜くか、てめえら相手に刃こぼれでもしたらもったいねえ」
「なんだとっ!」
攘夷浪士たちの激昂した怒号が響き、ひとりが鯉口を切ろうとしたその瞬間だった。土方の膝が少し曲がったかと思うと、正面の男を勢いよく蹴り上げた。完全に無防備だった男は、うめき声すら出さずにそのまま地面に崩れ落ちる。間髪入れず、動揺した左側の浪士の頬に拳を打ち込み、右側の浪士の膝に蹴りを叩き込む。われに返った真後ろの男が抜刀すると、倒れた浪士の手からこぼれ落ちた刀を手にした土方が、一瞬早く浪士の頸に峰打ちを与え昏倒させた。
(…何秒かかった?なにあの人、刀なくても強いの?局長はそれ、わかってた?)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ