小説2

□大好きな近藤さんと 全1話
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総悟が近藤の部屋を訪れると、そこにはもっともいて欲しくなくて、そしてもっともいる可能性の高い男が先客でいた。
「チッ。本当にうぜってぇ」
「ああ?なんだ総悟てめえ誰に言ってんだコラ」
心の声をそのまま口に出した沖田に対し、土方が敏感に反応する。いちいち本気で相手にするから沖田がいっそうからかうのだと近藤は思うが、土方はどうもその辺が鈍い。
「よう総悟。どうした?」
「近藤さん、今日はもう上がりでしょう。中町の商店街で祭りやってんでさぁ、一緒に行きやせんか」
「へえ、中町って今日祭りなんだ」
知らなかった近藤がうれしそうな声を上げ、沖田の心にあたたかいものが広がる。
(この人のこういう顔は武州のときからなんにも変わってねぇな、どんなにえらくなろうがどんなに多くの隊士を引き連れようが。変わるのは周りだけだ)
「総悟、お前も今日はもう仕事終わり?」
「へい、自分の担当んとこはしっかり見廻り終わらせてきやしたぜ」
「嘘つけ総悟このやろ、てめえ今日のシフトは遅番だろ、なんでこんな時間に屯所にいやがるんだ、とっとと見廻りに戻れよ!」
「まったく母ちゃん並みにうるせぇお人だ土方さんは。俺は心の目でちゃんと自分の担当エリアが今日も平和か確認済みでさぁ」
「てめえの心の目はそんな万能じゃねえだろっ!神様かてめえは!」
「まあまあトシ」
近藤がタイミングよく間に割って入る。が、土方の攻撃の矛先は近藤にも向けられる。
「近藤さん、これから来月の演習場使う訓練の詳細決めようってことになってただろ。祭りなんか行って遊んでる時間なんてねえぞ!」
「でもトシ、あれ来月末の話だし、祭り行くっつったって夜中まで遊んでくるわけじゃねえし、ちょっと出るくらいいだろ。そうだ、トシも一緒に行こう。な、総悟」
「げっ、なんでそんな話になるんでぃ」
「俺は祭りなんて行かねえぞ!」
珍しく沖田と土方の意見が一致し、近藤の両耳からサラウンドで声が響く。
「総悟、そんな意地悪言わない。武州んときはよくみんなで行ったじゃねえか。トシもたかが数時間祭りに行くくれえで仕事が滞るほど無能な副長じゃねえだろ? それにこんな機会でもなけりゃお前、俺がプレゼントした浴衣着る機会なんてねんじゃね。箪笥の肥やしになっちまうぞ」
「え」
痛いところを突かれて土方が怯んだ。近藤から贈られた質のいい浴衣は、いかにも大切に箪笥にしまわれたまま、なかなか日の目を見る機会がなかったのだ。
「総悟、お前も捕物ばっか行ってねえでちゃんと羽伸ばさねえとな。あ、切れっぱなしでほったらかしにしてた鼻緒、こないだ下駄屋行ったときついでにすげてもらっといたから。今日は歩くたんびに鼻緒擦れしちまうほうの草履を履くことねえぞ」
「え」
今度は沖田が無防備な声を出した。いちばん履きやすく気に入っていた草履の鼻緒を切ってしまい、直すのを延ばし延ばしに下駄箱に放り込んだままだったのを、なぜ近藤が知っているのだろう。
「さー、みんな着替えて支度支度。5分後に玄関に集合な。はい、トシも部屋に戻って着替えて!」
「あ、うん」
「総悟はもう着替えてんもんな、先に待ってて」
「へえ」
近藤に言われるがまま土方と沖田は部屋を出て行く。結果として近藤の言いなりになっていることを半ば不思議に思いつつ、同時にどこかうれしく思いつつ。
そしてこれから3人は揃って祭りに向かう。




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