小説3

□多分あれもこれも愛 全2話
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今夜アップします!土方は朝から激しく機嫌が悪かった。
伝達事項を知らせただけなのになぜか怒鳴られた隊士、廊下ですれ違っただけでとんでもない顔でにらまれた隊士、赤信号で車を止めたら後部座席から殴られた隊士など、土方に理不尽な扱いを受けた隊士は時間とともに増え続けた。
「なんだよ今日の副長。ときどきわけわかんねえほど機嫌悪いときあるけど、今日もそれ?」
「いや今日の破壊力は2割増しだろう。よくあんだけ不機嫌な顔を維持できるよな、いっそ感心する」
「そもそもなんであんなに機嫌悪りぃの?」
「朝、局長の部屋からマヨがどうのこうのって副長が怒鳴る声を聞いた奴がいるけど、詳しいことは全然。局長も朝から出かけちゃっていねえし」
「まあ俺たちは一刻も早くあの嵐が過ぎ去るのをじっと待つだけだな」
隊士たちが談話室で話に花を咲かせている頃、自室にいた土方はうっかり吸殻が山盛りになった灰皿をひっくり返し、やり場のない怒りで絶叫したところだった。
(これもみんな近藤さんがいけねえ)
土方は下品な舌打ちをし、押し入れからごそごそとハンディアイプの掃除機を取り出す。
(勝手に捨てやがって!俺の許可もなく!)
思い出すだけで腹が立ち、土方は掃除機をやたら執拗にかけた。
ここまで土方を怒らせたのは近藤だ。
土方の部屋の棚に、長いこと未開封のまま鎮座しているマヨがあることを近藤は知っていた。なんでもどこかの地鶏のなんとかというレアな卵と、べに花が云々というレアな油だけを使って作るレアレアなマヨだそうで、土方は大変な労力を使ってようやく手に入れた。そしてうれしくてうれしくて、飾って崇めているだけで味見すらしていなかった。使うために買ったんだろと近藤が言っても、いずれは使うけど今はまだ見て楽しんでいたいんだと、気味の悪いことを幸せそうな顔で言っていた。
ところがこのマヨの原料に伝染性の細菌が含まれている可能性のあることがわかり、商品はすべて回収する騒ぎが起こった。土方はそのニュースを青ざめた顔で見て、俺には無理だと言ってマヨを処分しなかった。近藤は土方のその様子から、マヨを口にするのは時間の問題だと危険を感じ(実際土方は病気になってもいいから味わいたいと思っていた)、少々乱暴だったが本人がいないうちにマヨを捨ててしまったのだ。土方がそれに気づいたのが今朝だった。
「なんてことすんだよ!俺があのマヨどんなに大事にしてたか知ってんだろ!」
「どんなに大事にしようが食ったら病気になるかもしれねえんだぞ、死亡率高いんだぞ。しかも伝染性でほかの隊士にもうつしちまうかもしれねえんだぞ、お前その辺のことわかってる?マヨって命かけて食うもんじゃねえだろ?そもそも主食どころかおかずですらねえんだぞ」
「うるさいっ!近藤さんにマヨのなにがわかる、俺の気持ちのなにがわかる!勝手に捨てるなんて、どうしてもっていうならせめてにおいくらい嗅ぎたかった!」
近藤は涙目で怒鳴る土方に頭がおかしいのではと不安になったが、そんな近藤の背中を土方は乱暴に押し、「出てけよ!近藤さんの顔なんて見たくねえ!」と部屋から追い出してしまったのだった。
そして荒れに荒れた1日が始まったのだ。
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