小説3

□俺は今ムラムラしている 全5話
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俺も男だからそりゃムラムラすることだってある。
家業を継ぐため真選組を退職することになった隊士の送別会で相変わらず惜しげもなく全裸を披露している近藤さんを遠目で見つめながら、俺は改めて思う。
俺も男だからムラムラすることだってあるんだ。
あのでかい体を押し倒してぶ厚い胸板に顔を寄せたい、顎髭かじりたい、尖らせた舌で喉を舐めたい、だんだん荒くなっていく近藤さんの息づかいを聞きたい。
押し倒すんじゃなくて押し倒されるのも大ありだ。「トシ」って耳元でささやいてほしい、剣ダコのできたでかい手で体中触ってほしい、ちょっと余裕がない感じで性急に着物脱がされるのもいい。
…と、俺は先週からずっと思っている。ずっとムラムラしている。自分でもなぜだかよくわからねえが、多分近藤さんがかっこよすぎるのがいけない。完璧な肉体。精悍な顔立ち。よく似合ってる顎髭。かっこいい上に色っぽい。近藤さんは自分で気づいていないが、あの人は相当色っぽいのだ。俺がムラムラするのも無理ない。
だから「トシ、今夜俺の部屋来ねえ?」といつものように声をかけられるのを、先週から俺は心待ちにしていた。書類が残っていようがハードな捕物でくたくただろうが、いそいそと訪れるつもりだった。いつでもウェルカムだった。
なのに!なぜ!こんなときに限って誘ってこねえの!
屯所という特殊な環境で暮らしている以上、俺と近藤さんはそうひんぱんに一緒の夜を過ごしているわけじゃない。近藤さんが出張で不在のときだってあるし接待で遅いときもある。俺のほうも残業が珍しくない、翌朝早いこともある。そうやって考えると、ふたりでゆるりと過ごせる夜というのはさほど多くないのだ。
あいにく先週からすれ違いの多い日が続いていた。近藤さんが空いてるときは俺が急な捕物で出てしまったり、俺が空いてるときは近藤さんがとっつぁんに呼ばれて飲みに出てたり、ふたりとも屯所にはいるが急ぎの仕事に取りかからなねえといけなかったり、俺がムラムラすればするほど機会が遠のくような錯覚に陥るほど、俺たちはすれ違った。先日はようやくふたりとも今夜はフリーだと内心かなりわくわくしていたら、なんと近藤さんはすまいるに行きやがった。帰ってきたのは思いのほか早かったのだけど、そして近藤さんが廊下から俺を呼んでいるのが聞こえたけれど、悔しくて寝たふりした。その数日後、いっそ俺から誘うかと勇気を出そうとしたところ、近藤さんに「トシ顔色悪りぃぞ、昨夜仕事で徹夜しただろ。今夜はゆっくり休めよ?」と本気で心配そうな顔をされ、結局なにも言えなかった。
だからムラムラが一向に収まらない。
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