雪樹月下

□第零夜
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-フランス パリ郊外-



『久遠様、旦那様からお電話です』

テラスで読書に勤しんでいると、使用人の1人が電話を差し出してきた。

『ありがとう。

……はい、久遠です』

電話を受け取り、下がるのを見てから耳に当てる。ついフランス語で応答してしまったが問題ないはずだ。多分。

『やぁ。久しぶりだね久遠』

時折ノイズが混じるのは相手が異国にいるからだろう。機械を通していながら尚優しく慈愛に満ちた声色にほっと安堵した。

『お久しぶりです、真雪様。お加減はいかがですか?』

持っていた洋書をテーブルに置き、最後に会ったのがいつだったのかを考える。
このパリ郊外の屋敷に来たのがかれこれ半年前で彼は3ヶ月もしないうちに故国に戻ったから……おそらく3ヶ月以上はあっていないだろう。

『私は元気ですよ。父と母も元気にしていて、貴方に会いたがっていますよ』

週に何度も連絡はとっていたがやはり実際に会いたくなるわけで。

『俺も、お会いしたいです』

これが俺の平穏の終わりの合図だった。

『なら話は早いですね。久遠、日本に来ませんか?』

……………は?

『……すみません。幻聴が聞こえまして…』

『もう一度言うよ。
日本へ来なさい』

うーわー。もう既に疑問文じゃなく強制になってるよ。
しかも聞き間違いじゃないし。…………え、本気?
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