ヘルシング

□あなた
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「―ッ!?マ…マスタ…ッ!」


驚きも叫び声も総て、その唇に吸い込まれた。
その覆い被さる身を剥がせないのは、単に力の所為ではなく。
紅い赤い、その虚の眸に囚われるから。

いつの間にか絡め盗られた舌が、淫靡な音を立てて仄灯りの室に響く。
同時に胸元を割り進むその、冷たい指が、身体に纏わりつく違和感をまるで溶かすように脱がせていった。
撫でられた咬み痕が、何故だか灼けるように熱い。


「怖いか」


そう低く囁きかける耳元を甘噛みされて、心臓が止まる思いがした。
怖いかと聞かれれば、怖い。このまま彼の闇に引き摺り込まれて終うのではないかと、幾度も思う。
しかし今更止まれないのを分かっていて、こんなことを訊くマスターは、とても狡い。


「こ…怖いです、…マスター」


哀願したとしても、微塵も気になど掛けはしない。
舌が耳の裏を這い、首に残る咬み痕をねっとりと舐めた。
いつしか身体は上から下へと這う舌先の、その動きに乗じて快楽を貪る。
その唇が内股を撫でた。
隙を突かれて力ずくで押し広げられた足を舌が這い、何の躊躇いも無く粘膜に触れて、その直接的な刺激に思わず震えて身を捩る。
昂まる欲に堪えられなくなるまで、焦らす愛撫をマスターは止めてくれない。
膣口から溢れ出した体液をわざと絡めとって、耳を塞ぎたくなるほどの淫らな音を立てている。


「さぁ、どうする?」


マスターはきっと、遊んでいるだけ。
心底欲しているのはあたしの方で、それを知っていて弄ぶ。
いつも彼は与えてはくれず肝心な時に選択を迫るのだ。
それはあたしを吸血鬼にした時とまるで同じだ。


「…あ…愛してください、マイマスター」


震える声で、羞恥を噛み殺して言った。
すると満足げなその眸が微かに揺らぐ。
その眸の朱が黄金色に変わる光が好きで、虜になる。

同じ咬み痕に再度牙をあてられ、吸い上げられるのと同時に身体を一気に貫かれた。
呑み込んでいる筈が、まるで呑み込まれているような、そんな感覚に陥る。
激しく揺さぶられ、足がマスターの腰に纏わりついて放せずに、自分でもその卑猥な仕草が厭だった。
堪らなくて、マスターの黒髪を掻き乱して、啼いた。
意識が朦朧とする中で、縋る者は彼だけなのだと嫌でも思い知らされる。
そして彼は容赦なくあたしの最奥まで入り込んできては、掻き回して、擦りつけて、自分の残り香だけを残してゆくんだ。










激しい行為の後にはいつにない優しい眸をするマスターが、あたしの髪を掬うのが好きで、
嗚呼、やっぱり狡いなぁ。






こんな行為に意味が無くても、そう仕向けられたと分かって居ても、構わなかった。

それはきっとかけがえのないあなただからなんだろう。




そう思った時、後ろから千切れる程強く抱き締められて、心を読まれたのだと気づいた。









20090221

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