ヘルシング

□SIREN
1ページ/1ページ

いやなゆめをみた




久しぶりに見た彼女は酷く疲れていた。
何に疲れているのかはっきりとしたことは分からないが、もうこの世に存在している事自体が億劫そうに見えて、それに気づかぬフリをしている自分もとても恨めしかった。

彼女が部屋を後にする。

気にはなったがすぐに後を追う気分にはなれず、暫く考えるフリをした。
でもそれは長くはもたなくて、やはり彼女を連れ戻さなくてはと、重い足を引きずりながら重たい扉を押した。


すると眼前で、包帯巻きになった彼女の屍が雁字搦めに縛り上げられていて、檻に閉じ込められていた。
ようやく"もと"に戻れた筈の彼女は、自分のせいで死して尚辱めを受けた。
彼女の屍が、お前のせいだよ、と優しく言った。

久しぶりに見た彼女は酷く疲れていた。









目覚めたとき、時刻は午後8時を回っていた。
夢の事を思い出し、馬鹿馬鹿しくて、可笑しかった。
死して尚縛られているのは私のほうだ。



私の遅い目覚めを気にして、奴が起こしに来た。
入れ、と言えば、恐る恐るその顔が覗く。


「お…お目覚めですか〜?」


そのあどけない、赤子のように無知で、無垢なそいつが、時に妬ましくなる。


「来い」


そう言われて、私が起きていることに安心したのか何の疑いもなく奴は私に近づく。
それを無理やり棺に引きずり込んだ。
逃げられないように馬乗りになり抑えつけて、雁字搦めにしてやった。
首を抑えつけて、ゆっくりと力を込めれば、かつて自分が残した咬み痕が目に入る。


あの時のように、
他の者に捕らわれるくらいなら
いっそ、今、ここで。



下にいる奴が、そんな私を哀れな瞳で見上げた。
蒼くて、美しい、無垢な瞳だ。
苦しみに歪んだその表情が、微かに、笑った。




嗚呼やっぱり俺は









衝動が抑えられなくて、乱暴に抱いた。
抱きたくなるときは、いつもこんなときだ。
下で奴の悲鳴が、艶のある声に変わった時、何もかもを忘れて夢中になる。



その時確かに、サイレンが鳴るのを聞いた。

いくら欲しても満たされないのを知っていながら、私は彼女を弄ぶのだ。
酷い話だ。








20090219

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ